気づけば、アイツの背中を目で追っている自分がいる。

そのことに気付いたのは最近のこと。





 アカイロノウサギ。








 「ローイドくーん、……て、何してんのよ。」
一生懸命に何かを吟味している赤い少年。
その背中に抱きつきたくなる衝動を抑え、後ろからひょいと顔を出す。
 「………。」
 「………なに、それ。」
赤い厚手の手袋の上に転がされた数個の宝石。
それを転がすとその中で一番目を引く、スカイブルーの煌びやかな石が顔を出した。
ロイドはその石を摘み、ゼロスの方へと向きなおると目前にスカイブルーの石を差し出し
顎でそれをしゃくって、ニッと歯を見せて笑う。
 「これ、光に透かしてみ」
言われるがままにそれを受け取ると、太陽の方角へと石を掲げ宝石の腹の部分を覗き込む。
 「!」
光に翳すまでスカイブルー一色だった宝石が、光に翳すことで石は光を取り込みそれが屈折し
緑、黄色、何色もの色でその宝石を輝かせた。
宝石は人を魅了するという言葉がある。
だから女性は身体に宝石を身につけるのだ。それが大きく、どこにもないような宝石であればある程
身に付ける価値がある。
その宝石を身に着けることで、自分という価値があがるのだ。
だから、ゼロスの周りに集う女性は常に宝石を身に着けていた。
金にものをいわせ、職人に綺麗なシルクのドレスを仕立てさせ鼻につくほどの香水をふりまき極めつけは
宝石を身に纏う。
中身が空っぽで値打ちがないから、そうまでして自身を飾り付ける。
ゼロスは正直なところ、そんな女性に辟易していた。
宝石なんて、金を出して買う程でもないとおもっていたのだ。
 「綺麗だろ?…なぁ、これいくらだと思う?」
値段をつけろといわれても、分からない。
ここまで綺麗な石なら相当の価値はするのだろうが、今まで宝石を購入したこともないゼロスにそれを
計らせても無駄な事だった。
その石をロイドの手の上へと戻すと「さぁな」と一言呟き肩を竦ませる。
 「そりゃそれだけ上質の石じゃ値ははるんだろーけど、俺さま宝石には興味ねぇからな」
 「タダだぜ、これ。」
 「は?」
あんぐりと口を開け、ロイドを見遣る。
ロイドは、してやったりといった表情<かお>で笑って目線を泳がせると「あそこで拾った」と先程まで
居た遺跡の方角を指差した。
先刻までいた遺跡はそれなりに強い魔物が出没するため、多くの人は足を踏み入れない。
それは、人が通った跡も見極められないほど荒れ果てた遺跡の中を見れば一目瞭然だった。
だからこそ、レアなアイテムが手付かずのまま放置されていてもおかしくはない。
 「何だそういうことか……んで、それをどうすんのよ?訳もなく此処にいたわけじゃないんだろ」
年季のはいった木造板には飾り気もなく『Jewelery Shop』とだけ彫られている。
天井からぶら下がったそれを、しゃくってロイドを見つめる。
だがロイドからの反応はなく、話は済んだといわんばかりに先程のようにゼロスに背をむけ宝石を吟味し
はじめた。
 「…ああ、そう。誰もがうらやむ程に見目麗しいこの美青年を捕まえてロイドくんはそーいう
態度をとっちゃうわけだ?」
 「・・・・・・。」
 「かっちーん。おい、こら!きいてんのか、このタコ助!」
俺さまを構え、構え、とロイドの周辺をウロウロと徘徊してまわるが、まるで視界に入っていないようで
ロイドは宝石を摘んでは戻し摘んでは戻しを繰り返している。
 「無視すんなー、俺さま拗ねちゃうぞー。」
 「・・・・・・決めた。おっちゃん、これとこれ頂戴。」
 「あいよ、…坊主良いの選んだな。そいつぁ、ここに出てるだけで最後だぜ。」
ロイドは店屋の主人に相槌を打ちつつ、腰から硬貨のはいった布袋をとりだして手早く清算を済ませると
まるで其処に誰もいなかったかのように、ゼロスに一目もくれず一人で外へと向かって歩き出した。
ゼロスは呆然とその様子を見つめていたが、ロイドがお店から出て暫くすると珍しく困惑したような表情
を浮かべ小さく舌打をして踵を返す。
 「あ、ちょっと待て…」
外へ出る寸でのところで、店主がゼロスを呼び止める。
苛立ちを隠そうともせず眉間の皺を深めて振り返ると、店主は困惑したようにゼロスを見つめ返した。
 「…あの茶髪の少年が持っていた宝石は、どこで見つけた?」
 「遺跡。」
間髪いれずに即答すると、後方で「あの坊主の石、どっかで・・・」と呟き声が聞こえてきたが
特に気にすることもなく足を進めた。








------------------------------------------
戻る

久々にロイゼロ熱復活。
今から、ゼロ痰が壊れてきます。
・・・いや最初っから壊れてるのか。