オレね、おにーちゃんになるんだよっ あらあら、悠くんお兄ちゃんになるの。 ずっと一人だったものね。それなら、もう寂しくないわね。 うんっ! 今日は…しゅー…えっと…あ!しゅっさんよてーび!なんだ! おとーとが産まれる日なんだって!! にこにこにこ、と始終楽しそうに笑いながら町のひとたちに自慢して歩く。 ほんとはずっと家にいて産まれる瞬間をみたかったんだけど、こどもがウロウロしてたらアブナイんだって 追い出されちゃった! 何時間もそのまま待ってたけど、がまんできなくて家を飛び出して町のひとたちに報告してまわる。 もうそろそろいいかなあ。 もう、うまれてるよね、 おもちゃやさんを過ぎたところで立ち止まる。 「…バットとグローブ、」 おかあさんに、言われたことばをおもいだした。 悠くんは、お兄ちゃんになったら何したい? …んー、…やきゅう! いっしょにやるんだっ そっかぁ、じゃあこの子のバットとグローブも用意しないといけないね。 おかあさんがフワリとわらって、ぽっこりふくらんだお腹をなでた。 いいよ!オレがかう! え…でも…、悠くんバット高いんだよ? おかしがまんして、ためてた! くびから下げたがま口サイフをじゃらじゃらとふってみせる。 そっか、じゃあ悠くんが買ってあげてね 「廉」もきっと喜ぶよ。 おかあさんがオレの頭をなでた。 くすぐったくて、でも暖かい。 ふたりしてクスクスわらったんだ。 チリリリン。 OPENと書かれたプレートを下げたガラス戸を押し入る。 戸口に下がった鈴が、鳴りレジの奥からおじさんがドタドタと慌ただしい音をたてながら顔を出した。 いらっしゃい。…おや、ぼうず…どうしたんだい? こんにちは!えっと…バットとグローブ、ください! バットとグローブだね…ちょっと待って 整理された棚には色々な種類の玩具が並べられている。 奥から数列目の棚をゴソゴソと探ったおじさんは、バットとグローブ、それにボールを片手に戻ってきた。 はい、3900円ね。 ガマ口サイフからジャラジャラと小銭をいっぱい出しておじさんに渡した。 おじさんが小銭を数え、こまったように唸る。 足りないけど・・・・・・・・・まぁ、いいか。 ぼうず、しゅっせしたらおじさん店にまた買いにくるんだぞ! わしわしと頭をかいぐりまわされて、オレはくすぐったさに肩を竦めてわらった。 体に不釣合いな大きい袋にはいったバットとグローブそれにサービスでくれたボールを一生懸命持って 家へと向かう。 「ただいまっ、おかーさん、うまれたっ?!」 勢いよくドアをあけると、家の中はさっきまでの騒々しさがうそみたいにしずまりかえっていた。 だれもいない・・・? 「あ、」 玄関に、あるはずがないボロボロの靴が脱ぎ捨てられていた。 うそだうそだ、あいつがここにいるはずがない! 「〜〜〜〜〜っ、〜〜!」 「…めてっ、…ん、れん!!」 がしゃー、ん。 「おかーさんっ!」 こきゅうが、みだれる。 しんぞうがどくどくと、いたい。 まさかまさかまさか、 ぎぃいいいい 「う、そ・・・」 半開きだった其の部屋を押し開くと、両手で顔を隠し嗚咽に震えるおかあさんと、 血まみれでぼこぼこに殴られすてられたうまれたばかりの れん。 「…遅かったな、悠一郎。…お父さんが帰ってきたぞ」 にたにたと気持ち悪い笑みを浮かべた男が、血まみれになった拳でオレの肩をギュッと握る。 背筋に、汗がうかんだ。 「おまえたち、お父さんに内緒でいなくなっちゃうから、お仕置きをしてたんだ」 「れん、」 足元に転がった肉の塊。 オレの、おとうとになるはずだった子。 小さいその体を抱きしめて、オレは部屋に入ったときに落としてしまったバッドを見つめた。 それにおずおずと、手をのばし 「なんだ、その顔は」 「っ悠くん、やめて」 オレは。 スイカでも割るように、夢中で其の巨体の頭目掛けて何度もふりおろした ------------------------------------------ 提供→ネズミのビンヅメ。(カナ*イさま著の動画) 現在非公開です、 戻る |