知っている
キミを大スキなヒトがいること
キミの大スキなヒトがいること

知っている
キミはボクをスキじゃないということ
ボクだけがキミをスキだということ

知っている
その手のぬくもりを知るのがボクだけでないこと

知っている
それでも手放せないボクがいるということ




<SARUNO×USHIO>





どうしてこんな事をしているのか、僕はそろそろ思い出せない。
今は、BRという殺し合いの最中で。夜がきていて。もう、彼も、精
神的にまいっていて。つかれていて。


  なのに。

「…あ…。」

彼が肌を撫でるその感触に、身を震わせている僕がいる。その後を追う
様に唇がはい、息が上がる。躯があつい。
どうして今、僕と猿野くんは体を重ねているのだろう?ぬがされてひか
れたユニフォ−ムの上で、のしかかられながら思う。


  恋人同士でもないのに。

彼の、かたくなっているてのひらが肌をすべり、僕の下腹部へと伸びていく。
気付いた彼が、安心させる様にやさしく、もう片手で僕の背を撫でる。
その気使いに、涙が出そうだ。嬉しくて、勘違いをしてしまうかもしれない。

もしかしたら僕を好きでいてくれているんじゃないかって。

  でも、違うんだ。

「…ん、あ…ッさ、るのく…」

しごかれだして、声があがる。自分でスるのとは大ちがいの快感に、止めようと
する手にも力は入らない。
このままだと、僕は死刑だ。

『隣人のものをむさぼ』ってしまうし、『女と交わる様に
男と交わ』ってしまう。旧聖書で禁じられているのに。

思っても、体は思う様に動かなくなった。口からは自分のと思えない様な声は上が
るし、限界は近いし、猿野くんはやめてくれない。それどころか、彼のもう片手が
不穏な動きすらしている。その内部に入り込んでくる不快感にすら快感の糸口
を見つけて、僕はみだれまくっていた。
内部をかき回され、自身をすりあげられ、僕はあえぐ。辛いのは、限界ギリギリに
なるたびに彼にはぐらかされる事だけで、他は何ともなかった。ただ、気が
狂いそうな位の快感に身を任せて声を上げている。
何度もはぐらかされ、どうにかなってしまいそうなことに、ようやく僕の中から
猿野くんの指が抜け、代わりの様に、わずかな痛みと強烈な圧迫感が
僕をおそった。あまりに苦しくて、止めてほしいと叫びたくて、でも言えなくて、
僕は彼の首に手を回す。すると背中ごしに肩をつかまれ深くうがたれる
為に引き降ろされた。


  苦しい。

僕の耳モトで、猿野くんの息づかいがする。少しみだれているその首に、もしか
して彼も苦しいのだろうかと考える。

でも、きく時間はなかった。
猿野くんが、ゆっくりと腰をゆすり出す。それは段々と速くなり、ピストン運動
もそれに加わった。内側をこすられる快感に、苦しさで遠ざかっていた限界が
近くなる。頭がおかしくなりそうだ。


  そのまま、そうなっていたらよかったのに。

僕は、指先にあたるソレに気付いてしまった。彼の背に回した手。その場所
の古い爪でつくられた様な傷跡。
躯はあついまま、頭だけが現実に戻されていく。
これをつけたのが誰か、僕は知っている。
僕の背を抱く手。その吐く息。その体温。

それを感じるべきその人、僕を知っている。

「…あ…」

ほほを、涙が伝わった。そのまま目を閉じ、猿野くんの上半身だけ裸のその肩口に
顔をうずめた。泣いているが為にあつい頬は、情事の時のソレとなんら大差なく
それがありがたかった。

  きっと僕は、彼にとっては、「彼」の代わりか、それ以下にちがいない。
  こんなに好きでも、そのランクから上へは絶対上がれない。


彼自身の絶頂が近いのか、僕はとてもはげしくゆさぶられていた。もう僕は
声をもらすこともなく、ただあらく息を吐く。彼も同様で、ただ僕は彼に
しがみついていた。

一瞬の静止。中でうけとめたしょうげきと、自分の震えと。
互いに欲望を吐き出し合い、僕たちは脱力した。猿野くんが、僕の中から
出てから、その体重をこちらにかけてくる。少し重くて背中も痛いけど、そうされる
ことが嬉しくて、僕はクレ−ムをつけなかった。


  そうしていると、本当に、本当に恋人同士になっている様で。

しばらくしてから、猿野くんは身を起こした。そして横に座り、ぬぎ
すててあった自分のユニフォ−ムに手をのばす。
着込んでいく彼に、そういえば夜風がいやに冷たい事に気が付いて、
僕も起き上がった。そして、しいてあったユニフォ−ムに手をのばして。
とりあえず1着着終えた時、いやに近くで銃声がした。
そして、頬と髪と、着ようとした白いユニフォ−ムにかかる、紅い水。

血。

いやにかんまんな動作で、僕は、銃声と血の飛んできた方を見る。
頭に孔を開けた猿野くんが、驚いた顔をしたまま、こちらに倒れ込んで
きていた。その骸は僕のひざの上に垂り、そして僕は、彼を殺した
そいつの顔を目にする。

「…犬、飼、君…?」

そこにいたのは、犬飼くんだった。暗くて顔は見えないが、肩で息を
しているのは分かる。手にある銃は、かわいた音と共にその足元に落ちた。
フラフラと、彼はこちらへと歩いて来た。そして猿野くんのそばに座り
込み、呆然とした目で死んでしまった猿野くんを見下ろす。まるで僕の事を
忘れ去ったかの様に。
そんな彼を、僕は黙って見つめた。そうしながら、左手でそこらに転
がした銃を探す。


犬飼くん。
彼は、僕がなりたくてもなれない位置にいる人。

手が、鉄のかたまりに触れる。
きっと今彼は、猿野くんを殺した事を悔いているんだろう。
だったら殺さなければよかったのに、と妙ないきどおりを感じる。感じて
当然なのだろうか。僕は想い人を殺されたのだから。

僕は、彼に銃を向け、入っている全ての弾丸を、彼の躯に撃ち込んだ。


あやまちに気付いたのは、彼を殺してからだった。
よりそうようにして死んでいる2人。
後を追わせてしまった。その事実に気が付いて。
2つの躯を見下ろし、ため息が出る。
どうせなら、僕が後を追えばよかった。そう、考えてみて。

けれど、と、思い直す。

僕が、どんなにどんなに猿野くんを好きでも。
彼は、犬飼くんが好きなのだ。
それは変えられるハズもなく。

「…さようなら、猿野くん…。」

ポツリと、呟いた。目の前がぼやけていて、自分が泣いていると自覚する。
他の人を想う人のそばでよりそって死んだとして、何のイミがあるの
だろう。

ただ、哀れなだけだ。


  だから。

「…好きだったよ。」
死んだ躯に囁いて、僕はそこを後にする。
埋めもしなかった彼らが、落葉たちによってうもれていく事を願いながら。




知っていた
キミを大スキな人がいたこと
キミの大スキな人がいたこと

知っていた
キミはボクをスキじゃなかったこと
ボクだけがキミをスキだったこと

知っていた
その手のぬくもりを知るのがボクだけでなかったこと

知っていた
それでもキミがスキで
けれど
キミのソバで死ぬコトができないボクがいるコト。










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