きっともう逢えないんだろう こんな事になるんなら もっと、ちゃんと話せばよかった ちゃんと「好きだ」って言えばよかった 何でこう憎まれ口ばっか叩いちゃうんだろう 何で素直になれなかったんだろう アンドロイドの夢の欠片 今日でもう2日、 プログラムが始まってから2日 ・・・殺し合いが始まってから2日・・・ みんなバタバタと死んでいく 俺ももうすぐ死ぬだろう 死にたくねえなあ・・・ だって死んだらあいつにあえないじゃん でもあえないのが運命なのかもな・・・ だったら淋しい。すごい淋しい とりあえずが口癖で 犬の名前も『トリアエズ』 よくちょっかい出してきて、 引きこもりで、超ネクラで でも、時々ふっと優しくなったりして・・・ 考えたら少し頬が赤くなってきた気がする 何乙女やってんだか俺・・・ まあ あいつには言ってないが 俺はあいつが 好き ・・・なんだと思う 始めてあった時は大嫌いだった やけに背が高いし ニセジュノンボーイだし 女の子にもててたし 俺的ムカツキ要素がたっぷりだった訳よ それで、なんで俺があいつを好きになったかというと・・・ 多分あいつとのじゃれ合いが、 とても楽しいという事を自覚した時からだ まあそれはごく最近だけど でもとりあえず(あいつにあらず) 俺はあいつが 好き なんだと思う あいつには一言もそんなこと口にしてない あいつには嫌ってると思われてるかもしれない ・・・自業自得?? 憎まれ口しか叩かないから きっと誤解されてるだろう 前は別にそれでよかったけど 今はすごい後悔してる その後悔は・・・ あれだな、なんつーか 寝る前に蚊を殺し損ねて 『ま、いっか』ってそのまんま寝て 起きたら身体中痒くなってて 『あ〜くそ!!』みたいな?? ・・・それを遥かに超えた感じ とりあえず、すごい後悔してるんだ だってもし言ってたら 今こんなに淋しいキモチにならなくてすんだんだろ? ツライキモチにならなかったんだろ?? それだけじゃないけど・・・ あいつは今何をしてるんだろう ケガしてないかな 生きて・・・・るよな 俺みたいに独りで歩いてんのかな 俺の事考えて・・はないよな・・・ 元気にしてっかな ・・・・・・・・逢いたいな だれよりも・・・・・・ あいつに・・・ □■□■□■□ 湿気の臭いと血の臭いが 交じり合った悪臭の漂う森の中で しばらく歩いて 立ち止まる 後ろを振り返って また歩き出す それの繰り返し そのなかで時はどんどん進んでいく 時は立ち止まらずに 後ろを振り返らずに ただただ進んでいく 時は進むごとに 俺の残りの時間を奪っていく 時が進むごとに 俺のわき腹から血がどんどん流れていく 嗚呼、もうすぐ死ぬんだろう 自分の体のタイムリミット 自分が一番よくわかる でもどうせ死ぬのなら、 最後ぐらい素直になってから死にたかった だってこのままだったら このままポックリ死んでしまう さすがの俺もそんなのはいやだ 素直になってあいつに 「好きだ」 って言いたい そしたらあいつはどんな反応をするだろう 考えだしたら気になってきた あ、でもその前にあいつに会わなければ意味が無いのか でもなんだか根拠はないが、すごい逢える気がする ・・・気のせいか?? もしもあいつに 好きだっていったら 本当に、どういう反応をするだろう 今まで運動部に入っていなかったから、 とても白い肌に 少し赤っぽいパサパサした茶パツで 満面の笑みではぐらかされるのだろうか それはそれで悪くはないけど あいつは何処にいるんだろう きっと独りで歩いてるはずだ さっきの放送で子津は死んでたし 報道部の沢松ってやつは始めのほうにもう死んでた あいつと特に仲がよかった奴はもうほとんど死んでるから たぶんあいつは今独りだろう あいつが誰か殺した? とりあえずそんなことはありえない 絶対にない あいつはそんなことする奴じゃないと思う あいつはきっと仲間とか、友達は殺せないと思う そういう奴だから好きになったのかもな でも、あいつの笑顔から好きになったのかもしれない まあそれはいいとして、 逢えるなら、早く逢いたくなってきた かけよって、抱きしめて、 何度も何度も 『好きだ』 っていって 抱きしめて、離さない そう思ったら 急に体から重力が無くなった 意識が吹っ飛ぶ 視界が上下逆転する ああ・・・俺・・・・倒れたのか・・・・? いやに冷静に考えてたら・・・・ 頭の中が真っ白になってった □■□■□■□ ほんの少し歩いただけで 沢山の死体を見た気がする もう疲れた 歩く事だけじゃなくて、こんなモノを見ることに 時にはグロイオブジェみたいなのが沢山あって 何度も吐いたし 仲のよかった奴も何人かいて 沢山泣いた もう疲れた なんで俺はこんな所にいるんだろう あらためて深く考えてしまった そしたらさらに切ない、やるせないパワーがめっちゃ増えた かめはめ波撃てるぞ。また ・・・・でもつっこんでくれる子津ももういねえなあ みんな・・・もういねえなあ・・・・ 何でこうなったんだよ・・・ わかんねえよ 何でこんなに簡単に、簡単に 今まで一緒に練習とかしてた仲間を 殺せるんだよ 俺にはできねえよ みんな死んでいくんだ 俺はただ残されるんだ 犬飼も死んじまったのか? そんなのイヤだ イヤだよ どんどんマイナス思考になっていく 俺、涙腺ゆるいのかな また涙でてきた・・・ 歩いていったら 否が応にも目に入るこの世界 気持ち悪い キモチワルイ 足元にも、沢山の血がついていた その血はまるで道しるべみたいに続いていた 足でも・・・引きずってたのかな 目線だけで追ってった ・・・誰が・・・・・・誰? そして 目に入ったのは いつも見慣れた白い後頭部と 真っ赤に染まった 白いワイシャツ 「・・・・い・・・ぬかい?」 足がガクガクと震えだした 声もかなり震えてる ・・・・てか・・・うそだろ? 「いぬかいぃぃぃ―――――――っ!!!」 駆け寄ってしゃがみこんだ うつ伏せになってたのを仰向けにしつつ 抱き起こした 「嘘だろ?嘘だろ??生きてるよな、死んでねえよな??」 腹からあふれてる血が、 余計俺に恐怖を与える こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい 「犬飼、犬飼、犬飼、犬飼」 無我夢中で名前を呼んだ 起きる気配は・・・ ・・・・・・あれ? 「うるせえ・・・・バカ猿」 手で頭を抑えつつ 普通に起き上がってらっしゃいます この犬様・・・ 「だから何回言ったらわかんだよ、バカ猿っていうなって・・・」 バカ猿と言われるとつい言い返してしまうのは 俺の性なのか・・・ 「・・・・・うるさい・・・・・・」 「へ?」 ていうか気付いたら 体が何かに包まれていた ・・・何かっていうか 犬飼? 俺、今犬飼に抱きしめられてんの? しかもちょっといてえ 「な、何だよ犬飼・・・・?」 顔を赤らめながら 戸惑いながら 聞いてみた 「・・・・好きだ・・・・・・・」 「・・・・へえ・・・好きだ・・・・ ・・・・・・・・・・って、ええ!?」 「好きだ・・・猿野・・・・・・・・」 嬉し涙が目から流れた 俺は犬飼の背中に手を回して ギュッと抱きしめ返した そして 「・・・・いぬ・・・かい・・・・犬飼・・・!!」 名前を呼んだ 腹はすごい痛いはずなのに こいつは更に力をいれて抱きしめてきた キモチが伝わってくる気がする 痛いくらい 悲しくなるくらい 強く、強く、強く、伝わってくる気がする 「猿野、猿野ぉ!!」 こいつの声が、少し震えてる気がする 泣いてるのかもしれない コゲ犬が、 俺の肩を掴んで 少しだけ離した やっぱり泣いてたみたいだった 頬には涙がつたってる 犬飼が ゆっくり顔を近づけてくる だから俺は ゆっくり目を閉じた ほんの少しだけなんだけれど それはなんだか儀式みたいにかんじた しずかで、ゆっくりとしていて まるで この腐った世界から 遮断されているような・・・ そして 唇がふれた とても、とても長い時間 でもホントはすごい短い時間 ふれるだけのキスをした □■□■□■□ バカ猿と逢って 好きだと言って キツクキツク抱きしめて 何度も何度も名前を呼んで ふれるだけのキスをした とりあえず俺はそれだけでいい これでもう死んでもいい 猿野を独りにするのはすこし気がかりだけど コイツが生き残ってくれればいい だっていくらコイツを独りにさせたくないといっても 一緒に死にたいわけじゃない 死んでも一緒に入れるなんて確証はないんだし だから俺は独りで死ぬ コイツは死んでも死なない気がするし 好きな人に死んでほしいと思う奴が何処にいる? とりあえず俺はそうじゃない だから・・・ 俺は 独りで死ぬ・・・・・ 「・・・おい、猿」 「だから、猿って言うなっつの」 リズムよくつっこむんだよな いつも でも、これも最後・・・・だろうな 「・・・・・・・猿野・・・・・」 少し間をあけて言いなおした 「・・・何だよ・・・・・」 間を空けたことに怒ってるのか 猿と呼んだことを怒ってるのか それとも別の何かを感じたのか 少し 不機嫌そうに答えた この 眉間にシワを寄せて不機嫌そうにしゃべるコイツも 満面の笑顔で話し掛けてくる人懐こいコイツも 涙腺がもろくてすぐ泣くコイツも 色んな表情に クルクルかわるコイツの顔も もう 見られないんだろう・・・・ できれば これからずっと近くで 見たり、ふれたりしたかった・・・ 「・・・・とりあえず・・・・・・・」 でも もう 『サヨナラ』 なんだよ・・・・ ずっと このまま時が止まってしまったなら ってさっきずっと思ってた 二人できりのこの時が永遠に続けばいいと ずっと思っていた ・・・・・・でももう俺は死ぬから・・・・・ ケジメ・・・・・つけねえと・・・・・・・ 「・・・・・・・・俺・・・・・・・・・もう・・・死ぬ・・・・・・・」 「・・・・・・・は?」 一瞬驚いたような顔になったかと思うと すぐに曇った 本当に、クルクルかわる表情だな・・・ なんて 心のなかで独りごちて 苦笑した 「・・・・・・・・・・何・・・・言ってんだよ・・・・・」 声がガタガタにふるえてる 涙腺がゆるいから 何度泣いても止まらないらしい また泣いてる・・・・ 「お前こそ・・・何泣いてんだよ・・・・・・・」 右手で猿野の目から流れてる涙を拭った そしたら猿野はその手を振り払って怒鳴った 「泣いてねえ!!」 若干ヒステリー入ってるかもしれない ボロボロとまた涙がこぼれている それを制服の袖でゴシゴシとこすって 俺の胸に顔をうずめた 「・・・・・なんだよ・・・・猿野・・・・・・」 振り払われた右手で 猿野の髪をゆっくりとなでた 汗とかで、すこししけってやわらかくなってた 俺はまた、ゆっくりとなでた 「・・・死ぬなよ・・・犬飼・・・・・・」 猿野が、おそるおそる顔をあげて 俺に言ってきた 顔は涙でグチャグチャで 気付けば俺のワイシャツを 握っていた手もふるえてて 『死ぬなよ』って言ってきた 「せっかく逢えたのに、やっと、やっと逢えたのに・・・・・・!!」 今度は俯いて 言った ズボンに、涙がぽたぽた落ちてくる すでに血で濡れてたけど 何故かはっきりと分かった 「・・・・猿野・・・・・・・・」 そんなコイツに俺は何を言ってやったらいいのか コイツみたいに沢山しゃべらない俺には・・・ 俺には何を言えばいいんだか分からなかった とりあえずも何も浮かばない なんだかすごい情けなくなってくる ・・・泣きそうだ・・・ 「死ぬなよ、死ぬなよクソ犬!!俺には・・・俺にはもうお前しかいないんだよぉ!!」 そう言ったら、少し落ち着いたみたいで 肩で息をしてるっぽいけど 小さな沈黙が周りを支配した 銃声も、悲鳴も、何も聞こえない ただの静寂が周りを支配した・・・・・ 「・・・・・・俺は・・・・・・・」 やっぱり、先に沈黙を破ったのは猿野だった また ゆっくりと顔を上げて まっすぐ俺の目を見つめてきた 「俺は、お前が死んだら・・・・・」 あまりにも まっすぐ見てくるから 俺は言葉を失った 何も喋っちゃいけない気がする 「お前が死んだら一緒に死ぬよ」 猿野がそう言った 俺が死んだら一緒に死ぬ? とりあえずそんなのいやだ 猿野がそれでよくても 俺はよくない だって、もし猿野が俺の後を追って死んでもみろ 俺は死んでも死にきれない 「・・・・・とりあえず・・・・そんなこと言うな・・・・・・」 とりあえずコイツの考えを改めさせないといけない じゃないと コイツは本当に死ぬぞ・・・ 「好きな奴に死んでほしいと思う奴が何処にいる? とりあえず俺はそんな奴じゃない・・・・」 これはさっき心で考えた事 だってお前のことを此の世で一番好きなんだ 誰にもお前の代わりはいない だからお前に生きてほしい 「お前には絶対生きて残ってほしい」 俺のかわりになんて言わない 好きな奴には生きてほしい とりあえず それだけ・・・ 「例え野球部の誰かが死んだって、 俺にだって、もうお前しかいないから」 猿野が俺しかいないから生きてほしいと願うけど 俺にもお前しかいないから俺はお前に生きてほしい もうお前しかいないから 大切なお前に生き残ってほしい ・・・嗚呼、やっぱり上手く言葉にできない・・・ 「だから最後まで生き残ってほしい 死ぬなんていうな」 とりあえず 俺にはこれしか言えない これ以上 何も言えない 考えられない 思いつかない 少しでも伝わっただろうか どうか伝わっていてほしい・・・ 「・・・・・犬飼・・・・・・・」 まだ涙の浮かぶ顔で 猿野は俺の名をよんだ 静かに ゆっくりと・・・ 「お前のいなくなった世界で、俺はどうやって生きればいいんだ?」 「!?」 その言葉に 俺は驚くしかなかなかった 「俺はお前といれなくなったらもう終わりだよ 死ぬのは怖い 死になくはない」 その言葉には 哀愁と 決意と 色々なモノが雑じって 俺はただ言葉なく 固まってることしかできなくて・・・ 嗚咽も漏らさず 静かに泣き 俺を見つめる猿野を 見つめ返すことしかできなくて・・・・・ 「・・・・・・・でも・・・・・・」 また、沈黙を破ったのは猿野だった というか猿野が話していたのだから 当然といえば当然なのだろう 「・・・でも俺は・・・・・独りになるほうが・・・・・・ずっと怖いよ・・・・」 そして猿野は俺の胸に肩を再びうずめた 「・・・・・・・・・・・さる・・・・の・・・・・」 俺は小さく震える肩を 軽く抱きしめた ・・・でも、軽く抱きしめると、飛んでいってしまいそうだな・・・・・ 「・・・・犬飼・・・・・・・・・・・」 顔をうずめていたから くぐもった声が聞こえた ・・・・・・すごい遠く ・・・・・・・・・・・遠くから・・・・・・・・・ 「・・・・・・・あれ?」 何か・・・・・・おかしい とりあえず 意識が遠くなる さっき頭の中が真っ白くなったのとはまた違う 「・・・・・・・・なんだよ・・・・・犬飼・・・」 猿野が顔を上げた 俺の顔を覗き込んでいる 何故か、こいつの顔が ・・・・・・・・・ぼやけて見える 「ゲホッゲホ ゲホ・・・ゴホッ!!」 猿野の顔が赤く染まった 赤い 赤い 赤い ・・・・・・・なんでだ? よく見えないけど コイツはスゴイ驚いた顔をしてるみたいだ すぐに意識を取り戻したみたいな顔をして 今度は取り乱してる ・・・・忙しいなあ・・・ 何か言ってるみたいだ・・・・ 聞こえねえ・・・聞こえねえよ・・・・・・・ もしかして 俺はもう ・・・・・死ぬのか? そして ・・・・・・・そのまま後ろに倒れこんだ・・・・・ でも、猿野がすごい淋しそうな顔して 俺の事をゆすってるから 薄れ逝く意識の中 俺は最後に 口パクで・・・・・・・・・ 「 」 □■□■□■□ 今 このクソ犬が 口パクで 『すきだ』 って言ったみたいだった どうしよう 犬飼・・・・死んだんだ いやだよ いやだよ いやだよ 俺、今ホントに独りなんだ もう誰もいない 誰もいないんだよ だから・・・・・・・・・・もう死なせて・・・・・ 「・・・・・・・・おい、犬ッコロ・・・・・・・・・・・」 一度も使わなかったちっさい拳銃を 手に持って こめかみに当てて言った 「俺も好きだよ」 響いた銃声を最後に 俺の思考回路はショートして そのまま 永遠に目覚める事のない眠りについて 二度と覚めることのない夢を コイツの腹を枕に 夢を抱いて ・・・・・・そして・・・・・・ ------------------------------------------ 戻る |