気付けば士郎は、何千、何万もの剣が地へと突き刺さっている場所に居た。
水平線の彼方まで、大小様々な剣が並んでいてまるで其処は墓地のようだった。
――戦場だったのだろうか?
だが、人一人見当たらない。殺風景で、…何だか、寂しい。
宛てもなく歩いていると見慣れた赤い背中が見えた。
たった一人で、ただただ空を見上げながら座り込んでいる。
何故此処に居るのか、疑問が沸かなかった訳ではないが廃墟と化したその場所で
話を聞ける相手がみつかったことだけでうれしかった。
ほっと一息吐いて、男の名前を呼ぶ。

 「   !」

確かにその名前を呼んだはずなのに、唇から漏れるのは空気の音だけだった。

 「  、   ?」

赤い背中の男は振り返らない。もどかしさに眉間を寄せて、男へと走り寄る。
足が重かった。
―ドサッ
思うように体が動かなくて、足をもつれさせ転んでしまう。
そこで、これは夢なんだと気付いた。

 「‥‥士郎。
  …お前は、間違えるな。」

男は、振り返らなかった。
宙を見つめるその視線の先には、一体何を見ているのだろう。
寂しい後姿。
ずっとずっと、一人でこんなところにいたのかと思うと胸が締め付けられるよう
に痛んだ。
重い体を起こしその背中を後ろから抱きしめて「一緒にみんなの所に戻ろう。」と口の動きと
吐息だけで伝える。
男は小さく笑って首を振った。
 「そろそろ、目を覚ます時間だ。」
男は、士郎の両腕を首から外して立ち上がる。
それと同時に、襲いくる眠気に首を大きく振った。
眠りたくない、あと一秒でいい
―…こうしていたい。
………あんたと‥一緒に。





目覚めればそこは白一色に染め上げられた部屋だった。
 「……あれ…、此処…。」
寝ぼけ眼を擦ろうと腕を持ち上げるが‥
――がくっ。
宙に浮かせた腕が、力なくシーツの上へと落下した。
 「あれ・・・」
士郎のその腕は、他の部分と異なっていた。
自分の体と一体化しているくせに、思い通りに動かず戸惑ったように眉間を寄せると
血の染みた包帯を逆の手で取り除く。
 「――な…、んだよ、これ…っ」
何か・・・別の胴体からそれ<腕>を切断して、本来あるべきだったハズだった自身の
其処にとってつけたかのような縫い目。
確かあの時俺は、イリヤを庇って・・・・・・
 「士郎…!もう、大丈夫なの?!」
とたたた、と軽い足音が聞こえたかと思えば、小柄な少女が飛び跳ねて俺の首へと
しがみ付いてきた。
 「…っ!…イリヤ、か…‥、…俺…この腕は」
目線を揺らしながら、腕からイリヤへと視線を移すと「ああ、それ。」と冷たい声
が返ってきた。
 「アーチャーのうでなの。」
頭を鈍器で殴られたように、頭痛がした。
―いま、何ていった?
 「アーチャーの、…それなら、……あいつは」
 「うん、消えたよ。それよりね、わたしずっと士郎が起きるまで此処にいて―……
…士郎……何で、ないてるの?」
分からない。と首を何度も振る。
士郎がアーチャーに惹かれていたのは事実だ。だが、そこまで会話を交わしたこともないし
仲が良かったわけでもない。
逆に、嫌われていたといっても過言ではないはずだ。聖杯戦争のルールに基づくなら、
彼には彼なりの理由と何か叶えたい目的があって、聖杯戦争に参加したはずなのだから
自分の従うべきマスターが、同じ土俵にたつ敵ともいえる士郎に助力することに良く思っていたとは
到底思えない。
時折、殺意を混めた視線を向けられていることには気付いていた。
だからこそ、アーチャーが士郎に腕を差し出した理由がわからなかった。


 「泣かないで、士郎…わたしが、ずっとそばに居るから」

違う、違う。と何度も頭を振る。
彼のかわりを誰ができるはずもない。
何故だか、理由はしらない。だけど・・・彼の在り方、物事の捉え方に反発しながらも、
どこかで惹かれていた。
本当に、気付くのが遅すぎる。
もっと、早くに気付いていれば、こんなことには、な ら な か っ た ?
元はアーチャーのものだった腕を何度も摩って、もう見ることのないその背中を
思い浮かべもう呼ぶことのないその名前を呼んで、掌を強く握った。



つぎは、間違えない。



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企画で拍手にうpした士郎→弓ssです。