―がりっ、がりっ。
先刻まで、男が寝ていたその地面を爪で何度も何度も引っかく。
地面は土ではなく硬い材質でできていた為、傷すら入らない。
やがて爪が剥がれ、指先と地面を少年の血液がぬらしても
それでも少年は、動作を止めなかった。

 「いつまで、そうしているつもりだ。」

鷲色の髪をした男が、感情を読み取らせない冷たい表情のまま近付いてきた。
綺麗な羽根がヒラリと動くたび、きらきらと輝く鱗紛のような粉が男の羽を一段と輝かせる。
その羽根を見た瞬間、期待に双眸を見開かせるがすぐにそれは落胆の色へと変わった。

 「・・・クラトス。」

その男が、ゼロスじゃないと分かると用は済んだといわんばかりに背を向け
先程のように地面へと指を立て、そこを引っ掻く動作を繰り返す。

 「いない、いないんだ。あいつが…ここに置いてったのに…。」

 「―やめろ、ロイド。」

クラトスは小さく舌打して、ロイドと呼んだ同じ鷲色の髪の少年の腕をつかんだ。
意外にも、ロイドは抵抗する素振りを見せず
力なくクラトスの肩へと額を乗せ、嗚咽を堪えるように小刻みに震えて泣いた。

 「あいつ…、言ったんだ……おれが居なくなってもお前は平気だろ…って」

「ああ。」と相槌をうって、言葉の先を静かに促す。

 「昨日クラトスにあった後、部屋に来てたんだ…、そのとき、アイツ笑って
お前だけ幸せになるなんて許さないって…‥俺が、もっとアイツと真剣に向き合ってたら…ッ、」

クラトスは双眸を細め、心の中で「神子、満足か」と呟いた。
きっと、この先ロイドはあの赤い青年を想いながら自分自身をずっと責めて生きていくのだろう。
選択次第では、他の者と仲睦ましく生きていくことも可能だったのに
ゼロスは、それを許さず『同胞殺し』という枷を与えたのだ。
思えば、ゼロスのロイドを見る視線には常に狂気じみたなモノを感じていた。
彼は、この少年に依存していたのだ。それこそ…異常なほどに。

 『お前だけ幸せになるなんて許さない、もう其処には居ない俺のことだけ考えて俺のことばかり
見てればいい。』

目映い程の赤い満月が、鷲色の少年と大人を覆う。
クラトスが何も言わず月を睨み付けると、聞こえるはずもないあの皮肉った笑い声が聞こえた気がした。




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企画で、拍手にうpしたssです。
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