十三年前の悲劇がもたらした、ただ一つの狂気。 それは果たして良い方なのか。 それとも悪い方なのか。 誰にも分からない。 〜二つの狂気〜 化け狐め・・・・! なんで、あんなのが里をうろついているんだか。 十三年ものの間、幾度となく耳にした陰口。 わざと聞こえるように言い合うそれに、金髪の少年は内心肩を竦めた その傍らにいた銀髪の青年は、目先の憎しみに囚われた里人の愚かさを心の中で嘲る。 「―――――ばかばかしい」 ぽつり、と呟いた少年の言葉に。 その傍らにいた上忍も、陰口を叩いていた二人の中忍も 見て見ぬ振りしてその場を通りすぎようとしていた里人も動きを止めて。 不思議なものでも見たかのように驚いてこちらを見ている。 「愚か過ぎて笑える。―――――いっそのことこの里を滅ぼしてやろうか」 あまりにも子供らしからぬ口調で言い放つ金髪の少年に、誰かもが声を失った。 そんな彼とは対照的に、銀髪の上忍は笑う。 「いいんでない?」 その言葉に少年以外の誰かもがぎょっ、とした。 あまり教師向きではない上忍の言葉に、少年は笑う。 それは狂気を孕んだ笑みであった。 十三年前の悲劇がもたらしたものが、彼をここまで変えたのか。 くすくす、と笑いながら、少年は教師に向き直る。 「―――――ねえ、キスして」 あまりにも子供らしくない、狂気を孕んだおねだり。 それを教師もまた狂気じみた笑みを浮かべて。 「―――――仰せのままに」 そう言って。 彼は覆面を外し、やや強引に精神的に病んだ子供の唇を塞いだ。 見せつけるようなそれに、その場にいる誰かもが驚く。 「・・・・・ん、は・・・・・」 深く合わせられたそれが、長い沈黙を隔てて離れた時。 彼らの視線が、周囲に向けられた。 ひいっ。 二人の狂気じみた瞳に、二人の中忍と里人は怯えたような声を上げて、そそくさ、と 慌ててその場から離れる。 「あーあ。情けないねぇ」 「ほんとだってばよ」 言い合いながら、狂気をその身に秘めた師弟―――――恋人はくすくす、と笑った。 十三年前の悲劇が、もたらした狂気。 化け物をその身に宿した下忍。 愛しい師を失った上忍。 十三年前の悲劇が、もたらした狂気は。 彼らに種を植えつけた。 それが良いのか悪いのか、誰にも分からない。 ただ、彼らは止らないだろう。 その生命が尽きるまで。 ------------------------------------------ 戻る |