日常的検証〜犬ver.〜




  
  日米野球を見てると、日本のレベルが上がったな〜って思う。

 ま、これもひとえに猿野天国様のオカゲだよな。

 何たって、ローズにバッティングを教えたのはこの俺。

 ・・・って、ローズは日米戦に出てなかったけ。

 さっそく墓穴を掘った俺は、ベースボーラーである。

 ちなみにベースボーラーってのは、俺の造語。

 野球で青春を過ごしている諸君は、是非ともこの言葉を使ってくれ。

 俺が所属しているのは、埼玉県立十二支高校野球部。

 県立の割には、道具の品揃えが良い。

 単に、野球部が大所帯だからだろうか?

 あと、流石県立とでも言うべきか、自由すぎる。

 キザトラのバンダナや兎丸のペイントや
 司馬のサングラスならまだしも、キャプテンの髪型や
 蛇神先輩の数珠と卒塔婆を許す学校ってそんなに無いよな。

 つか、野球部キャラ強すぎ。

 皆、底が見えないんだよ。

 最初の一週間なんて、完璧ノイローゼだった。

 でも何とか、そんな状況を切り抜けている。

 んで、最近思うことがあるんだ。

 犬飼っていう、俺の天敵がいるんだけどな。

 ガングロで趣味が自分探しなんていうふざけた野郎だ。

 俺とそいつは所謂、喧嘩仲間。

 最初はウザかったんだけど、最近思うんだよ。

 こいつ、野球部の中では比較的常識のある奴なんじゃないかって。

 いや、笑のツボがちょっと変なのは確かなんだ。

 けど、そーゆー次元じゃなくてな。

 他の連中と比べると、個性が薄いっちゅーかマトモなんだよ。

 

  「それでは、猿野君。我々はこれで失礼します」


 犬飼の相棒、辰羅川がそう言って部室のドアに手をかける。

 まったく、犬は自分で挨拶できねーのかね?

 『猿、また明日会おう!』

 『犬、ご機嫌よう♪』

 なーんて、会話は期待していない。

 寧ろ、そんなん寒すぎて出来んだろ。

 ま、ここまでしろとはいわないが挨拶ぐらいしやがれ、犬。


  「トリアエズ、、、何か用か、猿」


 ガンをとばしていた俺に、すぐさま突っ掛ってくる犬飼。

 トリアエズの使い方、間違ってね―か?

 接続詞、一から勉強しなおせよ。

 こういうところから、日本語の崩壊ってーのは始まるんだな。

 うんうんと、現代日本語について考えていたら当然、
 犬飼を無視する形になるわけで。。。。

 
  「ついに人間の言葉が出来なくなったか」


 などとほざきやがる。


  「うるせー。ご主人様(辰)を待たせんなよ、家畜が」

  「何だと?」
 
  「まーまー」

 慣れた手つきで、喧嘩の仲裁をする辰羅川。

 コイツとの喧嘩も飽きてきたな〜などと思いながら
 辰羅川の仲裁振りを眺めている。(最早他人事) 

 
  「あれ?犬、、、」

 ふと、何かが目に入った。


  「何だよ、バカ猿」


 犬飼の側で落ちていたノート。

 目を擦って見ると"極秘"なんてゆー文字が書いてある。

 所有者の名前も丁寧に『犬飼 冥』と。

 落とした本人は、気付いていないようだ。

 悪趣味といわれようが、この気になるノート。

 見てみたい。

 ついでに、奴の弱みを握れば儲けモノ。


  「・・・・・・何でもね―よ」


 俺の持論は『弱みを見せた奴が悪い。付け入る隙は徹底的に!』
 なので、この機会、是が非でも逃すわけにはいかない。


  「早く帰らないでいいのか?」

 
 先程、辰が挨拶をしてから随分経つ。

 とゆーか、さっさと部室から追っ払いたい。

 そんな俺の思いに気付くはずもなく、
 辰と何か文句をいっている犬飼は漸く帰路についた。

 その後、いつも通りに沢松とじゃれ合い(通行の妨げをし)ながら
 俺の家に到着。

 飯を食って、さっそく犬飼の極秘やらを見てみよう。




 『  ●月▲日  天気晴れ
   本日、十二支高校入学式。
  高校ともなると、流石に生徒数が多い。』


 ・・・・・極秘って、日記かこれ!?

 とにかく、先を読む。


 『これだけ人数もいれば、友達が出来るはずだ。
  中学時代は、内気すぎて辰しか友達が出来なかった。
  いつの頃からか、自分探しをはじめる始末。
  そんな過去に、今日から俺は別れを告げる。
  辰からも「私には私の人間関係があるのです」と言われた事だし。
  俺も俺の人間関係というものを作らねばならない。
  辰も良いことを言うな。』


 犬飼、気付けよ。

 何気、辰羅川に邪険にされてるって。


 『初日から頑張ってみたものの、易々と他人に声をかける事は出来ず
  結局気付けば、入学式は終わっていた。かなりヘコム。
  そんな時、辰が声をかけてきた。
  「犬飼君、焦っても仕方ないですよ。だからといって、私に助けを
   求めるなんていう、馬鹿げた考えだけはよしてくださいね」
  全くその通りだ。
  この問題に関しては、俺一人の力で何とかするしかあるまい。
  落ち込んでも仕方ない。
  また明日から、頑張ってみよう。
  それに、野球部に入れば友達が出来るかもしれない。
  頑張れ。
  やれば出来るゾ。
  己の力を信じて!』


 ・・・・えっと、辰の言葉って、単に「私に迷惑かけるな」って
 事なんじゃないのか??

 いや、別に勘違いで友情が成立しているから良いけどよ。
 
 犬飼って、鈍感なのか?

 あと、最後の方自己暗示かけてるだろ。

 神経質ってゆーか、精神的に弱いのか?




 『  ●月▲日  天気晴れ
   何と、野球部には入部試験なるものがあるらしい。
  これは早々に予想外の展開だ。
  そんな事をやっていたら、お互いにライバル関係で友情どころで
  はなくなるではないか!
  俺の友達作ろう作戦はどーなるんだ!?
  あー、不安だ。不安すぎる。
  第一入部試験ってどんなことをやるのだ?
  気になって、眠れない。
  もし落ちたらどうする?
  早くも、高校生活に挫折じゃねーか。
  また、自分探しの旅にでも出かけようか・・・・・。』


 そーいえば、入部試験の時(ってーか、いつものことだけど)
 眠そうにしていたよな。

 あれって、前日眠れなくて本気で眠たかったのか?

 ちゅーか、ナイーヴすぎやしねーか?




 『  ●月▲日  天気晴れのち雨
   野球部の入部試験があった。
  いろいろ悩んでいた俺に、辰が一言。
  「何悩んでいるんですか。バカは悩む必要ないですよ」
  辰にはいつも心配をかけてしまう・・・。』


 ぅをい!!

 心配どころか、バカってはっきし言われてるぜ!

 もっと現実を見ろよ。

 つーか、辰。。。。。。

 うん、流石の一言だな。


 『で、問題の入部試験の内容。
  砲丸投げで、アホ猿が現れた。
  何で猿が高校に通って、試験を受けているのか最大の謎。
  あと、めちゃくちゃ煩い。』

 
 ―――アホって、俺か!?

 貴様にアホ言われたくねーよ。

 この日記を見ると心底思うね。


 『その他の試験もそつなくクリア。
  しかし、一番の難関は最後の紅白試合。
  が、これこそ俺が求めていたものだ。
  試合に大切なのはチームワーク!友情!!
  この試合、なんとしてでも勝たなくてはならない。
  キャッチャーが辰だったことは幸か不幸か・・・。
  今更、辰と友情を深めてもどうしようもない。
  辰だって
  「何故高校まできて犬飼君の球を受けなくてはならないのですか?
   本来だったら監督に猛抗議ですが、今日は入部がかかっているの
   で仕方なく、犬飼君の女房役をやってあげますよ」
  と言っていた。
  辰も俺の友達強化政策に協力的である。』


 辰羅川・・・なんで、犬飼と友達やってるんだよ?

 なんで未だにバッテリー組んでるんだよ?

 犬飼も犬飼で、良い方向に勘違いしてるし。

 つか、犬、、、、、、、、。

 流石の俺も、同情してきたぞ。


 『オカシイ。。。。。。
  Aチーム圧倒的有利の展開なのに何故かBチームが盛り上がりを見
  せる。俺の目指していたチームワークがそこにあった。
  ・・・・何故だ!?
  何故、俺の求めていた展開を向こうでやっている!!?』


 Aチームって、辰と兎丸と司馬がいたっけ。

 ・・・あの連中にチームワークを求める方が無謀だろ。

 てゆーか、マジメに試験を受けろよ。

 こんなやつに第一打席で三振したかと思うと情けない。


 『何だかんだで最終回。
  ・・・・・・・・・・・詳細は省く。
  試合に勝って勝負で負けた気分だ。
  まさか、猿にHRを打たれ・・・強制終了。
  辰からは
  「バカだバカだとは思っていましたが、まさかここまでとは!
   ここで敵を倒しておかないと、私の優雅な甲子園計画は崩れて
   しまうのですよ!!本当、ここぞという時に打たれてどうする
   んですか!?この甲斐性なしっ!!」
  叱咤された。
  俺の我儘で、最後まで直球勝負。
  その結果がこれだ。
  確かに、辰に怒られても仕方がない。
  いの一番で、実力を発揮できない俺・・・・・・・・。
  久しぶりに自分探しの旅にでも出ようか。』


 えと、辰羅川さん。。。。

 「優雅な甲子園計画」ってナンデスカ?

 すんげー私利私欲が見えたな。

 犬飼も、、、そこまで落ち込まなくても。

 つーか、一種の憐憫さを感じたのは俺だけか?


 『試合終了後、あり得ない展開が起きた。
  何と、猿の周りで俺が夢にまで見た光景がっ!!
  辰、兎丸、司馬!!
  何故猿野に駆け寄る!
  何故そこにチームワークが出来る!?
  何故俺は独りなんだ!? 
  俺だって頑張ったじゃないか。
  最後に打たれたのが悪かったのか!?
  俺がピッチャーだからか?
  点数には絡めないどころかBチームに貢献しちゃったからか!?
  それとも何か、日に焼けすぎたのがいけないのか!??
  誰か、教えてくれ!!!!』


 もう崩壊しまくりだな。


 『いろんな意味で落ち込んでいた俺に、思いもかけない人物が話し掛
  けてきた。何ちゃって巨人即ち猿だ。
  何だちくしょう!
  この俺のありさまをあざけ笑いにきたのか。
  
   だが、猿との喧嘩(?)も考えてみれば楽しい。
  とゆーか、ちょっとだけフレンドリィになった気がする。
  俺が求めていたものだ。
  ふん、あいつ・・・・・案外良いやつだよな』


 どえらい勘違いありがとうっ!!

 犬飼。。。キモイというより、怖いぜ、その思考回路。


 『帰りは辰と一緒に帰った。
  「犬飼君、今日の感触は如何ですか?」
  「トリアエズ、、、少しだけ人間関係をつかんだぞ」
  そう答えると、辰がメガネをずり落として驚いた。
  「えっ!?まさか、アレでつかめたのですか!!?
   勘違い甚だしいですけど、そんなところが流石犬飼君ですね。
   私としてもベリーグラッドです」
  更に辰はこう付け加えた。
  「今日一日の考察結果なのですが、犬飼君。
   楽しい人間関係を築き上げたいのなら、まずは猿野君と仲良く
   なりなさい。あの方の周りにいれば、あなたの求めていたものが
   自然と得られるはずですよ」
  ありがとう、辰』


 ぅをーっい!

 辰、俺に厄介払いしてんじゃねー!!

 んなモノ、ノーさんきうだ。

 犬飼も、いいように洗脳されてんぢゃねー!



 『  ●月▲日  天気晴れ
   はれて入部して、野球部の活動初日。
  相変わらず、猿の周りには人だかりが出来ている。
  皆楽しそうだ・・・・・・・。
  はっ!イカンイカン。
  俺もこの輪に加わらなくては。
  後ろから、辰がオーラで急かしている。』

 オーラってナンデスカ?

 さしずめ、「早く私から離れてくださいね、バカ犬」
 ってところだろう。

 ・・・・・・こんなノート一冊で、辰羅川の思考回路が
 わかるようになるなんて。。。。。。。

 知らないほうが幸せってコトもあるんだな〜。


 『自己紹介、猿のおかげでそつなくこなす。』


 こなしてねーよ。
 あ"−、もう、勝手に友情が進んでるぜ。


 『十二支恒例、校内競馬。それすなわちチームワーク。
  相手は慎重に選ばなくては!
  と戸惑っている内に、気付けば辰しかいなくなっていた。
  ミステリィ・・・・。
  「結局、いつものパターンですか」
  「・・・スマン」
  「言っときますが、犬飼君を運ぶのだけは勘弁ですよ」
  「わかってる」
  校内競馬。。。
  長年培った辰とのチームワークの前に敵は無し。』

 
 チームワーク無いぢゃん!

 今の会話のどこに、チームワークが見えた!?


 『一位かと思われた校内競馬は、先輩たちに惨敗だった。
  しかし、何と言っても驚いたのは先輩たちの存在自体。
  アレが受け入れられるくらいなら、俺も大丈夫だろう。
  寧ろ、俺のほうがマシだ。
  野球部に入ってよかったな。
  一筋の希望が見えた、15の春。』

 
 先輩たちに対して、かなり失礼極まりないこと書いてねーか?
 
 あと、最後の一文。

 何の小説だ?


 『今度のGWに野球部合宿があるとのこと。
  場所は伊豆。
  否、場所なんてこの際関係ない。
  合宿それ即ち絆を深める!
  入部試験では失敗気味の友達強化作戦・・・・。
  今度こそは!
  俺の明るい未来のために――――っ!!』


 かなり浮かれてらっしゃる・・・・。

 
 『  ●月▲日  天気晴れ
   今日から伊豆へ合宿』



  バタン。

 もうギブアップです。

 これ以上読めません。

 きっと泣いちゃいます。

 それに長いです。

 ・・・・・・・犬飼、今頃あたふたしてんのかね?

 何せ、こんなもの(日記)をなくしたわけだし。

 流石の俺も同情気味。

 明日、朝一で部室に行って、目立たないところにこれ置いとこう。

 うん。

 そう決めて、布団に入る。

 明日、凪さんに会うことを夢見ながら。

 猿野天国、本日最後の一言、


 ・・・・・・・一度、辰羅川についても考察したいな・・・・





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