あの頃の、
あの時の、
汚れた血を総て抜き取らないと…
綺麗なあいつまで汚してしまう前に、
早く、
もっと早く!
「また…」
ベッドの上で目を覚ました彼は酷く落胆した様子で目蓋を開いた。
「また、何だって?」
押し上げた目蓋の向うから見えるのは見慣れた白い天井と聞き慣れた医者の声で
彼の心は益々重く沈めていく。
「折角生き延びたってのに、何がそんなに不満だってんだい」
ベッドに横たわる彼に説教染みた言葉を投げ掛けるのは、院長を勤めるDr.クレハだ。
彼女は幾度となく彼の命を助けてはいたが、それは彼が望んでいた事では決して無かった。
寧ろ余計な事だと感じすらしているのだが、医者と言う人種は得てしてそう言う者である。
「何で…助けたんだよ…」
物悲しい声は、俺なんて生きる価値が無いと擦れた声で続いていた。
それに対してクレハが酷く憤慨したのは言うまでもなく、再び自殺を図らない様にと
ベッドに拘束された彼の胸倉を掴み掛かった。
「人生の半分も生きてやしない小僧が生意気言ってんじゃないよ!世の中にはね、
生きたくても生きられない人間が五万と居るんだ、
五体満足に生まれた事をまず感謝するこったね!」
叱咤されても彼の表情が晴れる事は無く、益々闇色を濃くするだけだった。
「次やったら、猿轡だよ…覚えときな」
手足を拘束されたままの彼にきつくそれだけを言ってクレハは病室を後にした。
廊下を颯爽と歩き出すが彼の発作がどのくらいの周期で、
また何をきっかけに起こるのか解らない以上、拘束ベルトだけでは不安が残っている。
だがこんな症例は今まで見た事も無かった。
どんな中毒者も一定の自我を保てる様になれば、
普通ならば生きる希望を持ちやり直したいと考えるものだったが、
彼は正気でいられる時間が長ければ長い程強く、深く手首を切る習性にあった。
「…全く、どんな生活を送ってきたんだい…あの小僧は」
溜息を吐き出すクレハの元に一人の少年が現れたのは、朝の診察が始まる少し前の事だった。
「見舞いなら後、五分は待ちな」
回診を終え、患者達の症状をカルテに書き込みながら、素っ気無く言い放つクレハに
少年は笑顔を向けた。
「相変わらず、忙しそうなんだな」
やけに聞き覚えのある声に顔を上げると、左目の下に古い傷を持つ少年が一人立っていた。
「なんだい、ルフィじゃないか…あの小僧の見舞いに来たのかい?」
知り合いなのか、クレハの厳しい表情がやや緩んだ様にも見え、
言葉も何処と無く優しさを含んでいた。
少年は特有の笑顔を見せると、手にしていた袋をクレハに差し出す。
「これ、ナミがいつも世話になってるお礼にって!」
机の上に置かれた袋が立てた独特の音は、中身を想像させるに容易い物だった。
「それじゃあ、遠慮なく貰っておこうか」
解っていながらも一応中身を確認するクレハの眼に映るのは、手作りの梅酒だ。
ルフィが暮らす孤児院のシスターが趣味で作っている梅から作ったこの梅酒を飲むのが
クレハの楽しみの一つであった事は言うまでも無いだろう。
「なぁ、サンジ…少しは落ち着いたか?」
嬉しそうに顔を綻ばせるクレハとは逆に、表情を曇らせルフィは耳打ちする様な音声で囁く。
今此処でベッドに拘束されたサンジの状態を言ってしまうのは簡単だったが、
クレハは敢えて自分の眼で確認してくる事を少年に提案した。
病室に向かって歩き始めたルフィの前をクレハに、
何かあった場合の用心として呼び出された助手のチョッパーが歩いている。
「…サ、サンジの事なんだけな…一応正気で居られる時間は前よりも増えてるんだ!」
足音だけが響く沈黙に耐えかねたチョッパーはサンジの容態について話し始めた。
ルフィはただ、黙ってそれを聞いているだけだった。
彼が入院するように為ってから今ままで、面会謝絶でどんな風になっているのか
全く解らなかったが故に、ルフィはこうして逢う事にある種の緊張や恐怖を覚えていた。
思い出す事すら苦しくなるのだが、決して忘れる事は叶わない出来事だった…。
あの頃は今の様な穏やかな暮らしなど何処にも無くて、生きる事だけに精一杯だった。
ルフィの脳内に焼き付いた様に鮮やかに甦るのは、食べ物を盗む事でしか得られず、
子供同士の縄張り争いでいつも喧嘩をし、大人達に疎まれていた荒んだ幼少期─。
その頃はまだ、ストリートチルドレンと呼ばれていて、親の顔なんてのは知らなくて当然。
ダンボールや棄てられた板切れを使った家と呼ぶにはあまりにも質素過ぎる家に暮らし、
その地区を支配するヤクザやマフィアの落ちこぼれ達に金を納める為だけに喧嘩も盗みも、
何だってしてた…。
そんな中で出会ったのがサンジだった。
俺とサンジは気が合い、いつの間にかつるんで盗みをする様になって行った。
他人は俺達の事を可哀相だとか、社会のゴミだとか好き勝手に囁くだろうけど、
誰も好き好んでこんな生まれ方をした訳ではなかったし、頼まれたってしたくない。
でも、こんな生活からそう簡単に抜け出す事なんて出来なくて…今日を生きているからこそ、
毎日の中で楽しみを見つけて泥を食んででも生き抜いてやろうと思っていた。
「なあ、ルフィ…?今日の大仕事が終わったら俺達はれて普通になれるかも知れないんだよな」
横流しされている麻薬の取引を襲撃して阻止する…。
それが成功すれば普通に働ける仕事を紹介してやる、
と言う甘い餌をぶら下げられて俺達は今、成功率も失敗率も半分ずつの期待と不安の中に居る。
「あぁ…普通の生活かぁ」
思い描くのはあまりにも強く憧れた世界での希望に溢れたお互いの姿で、
こんな泥と欲に塗れた生活など微塵も思い出せなくなるぐらいに光に満ちた未来だ。
いつか掃き溜めから這い出して、陽の当たる世界で暮らす事…それだけを合言葉と夢にして
俺達は生きてきたんだ。
その後の夢はそんな生活を手に入れてから考えればいい、といつも笑いあってた。
喧嘩でボコボコに頬を腫らしながら、ナイフで一張羅が引き裂かれても、
俺達はその為に生きてきたんだ。
翌日、計画実行の時間が来た。
「ぬかるなよ?」
「そっちこそ、ドジすんなよ?」
事前に調べた倉庫の奥で、取引に来る人数は五人。
武器は護身用の銃としてトカレフ、
そして社会主義の象徴とも言うべきM−9が配給されてるらしい。
トカレフの性能はたかが知れているが、
M−9は軍用として量産された物の中ではかなり高いランクに位置づけされている。
それに対してサンジとルフィに与えられた武器は、アサルトマシンガンだ…。
多少は期待されてるのか、それとも下手な鉄砲も数を打てば当たると言いたいのだろうか?
「こーゆー時はもっといい武器調達して欲しいよな」
心ともない武器とアタッシュケース一杯の弾薬を両手に、
俺達は多分二度とは戻らないだろう住み慣れた家を振り返らずに歩き出した。
未練は無い。
覚悟もいらない。
俺たちはいつまでもこんな場所に居るつもりなんてなかったんだ。
希望と期待に満ち溢れた未来に向かって歩き出してる、それが嬉しかった…。
思い出すだけでも泣きたくなるぐらいに、嬉しかった…。
でも
でも、俺達は裏切られていた。
いや、違う。
それは違う。
「裏切った…確かにそう言えるのかも知れないな」
笑い声は取引が始まった瞬間に耳元で聞こえた。
俺がマシンガン片手に奴等の前に踏み出そうとした瞬間だ。
いきなり腕を捕まえられ、再び物陰に連れ戻されていた。
「茶番ってのは、この辺で終わらせればいいんだよなぁ」
俺の腕を掴んでいたのはサンジで、彼は空いた手でいつから持っていたのか解らない錠剤を
口の中に運んでいた。
「サ…ンジ…?」
ガリ、とサンジの歯の奥から錠剤を噛み潰す音がしたと思うと、喉を曝け出し天を仰いでいた。
その体は小刻みに震え、体が触れ合うほど近くに居るのに
聞き取れないぐらいに小さな何かを呟いている。
すぐにそれが麻薬だと言う事ぐらいは察しが付いた。
何度か中毒者を見た事があった。
「サンジ…お前ッ!」
俺の言うべき言葉はサンジの手によって塞がれてしまったんだ…。
ぞっとする程冷たい指先が俺の頬を強い力で、爪が食い込んでいるのが解った。
それから、サンジの顔が微笑みに歪んでいくのも見えている…。
まるで別人の顔に塗り替えられていく様だと思ってしまった。
「…約束だったよなぁ?あの奴等を騙せばあとは好きにしていいって」
俺とサンジの目の前に現れたのは始末するはずだった、俺達の敵が立っている。
警鐘が鳴り出した。
いや、危険だと言う状況ぐらい自分の頭の中ではしっかりと把握しきれている。
だが…体はサンジにしっかりと捕らえられていて動かない。
人気が無くなり、使い古された倉庫の埃を被ったままで
今は役に立たない麻袋が積み重ねられていた処に俺は急に解放され、倒れこんだ。
「サンジッてめェ…裏切ったのか!?」
振り向いた瞬間、俺はサンジに向かって喰いかかった。
拳を突き上げ、殴りかかろうとしたのだったがそれは簡単にサンジの掌の中に納まって
勢いを失ってしまう。
「裏切った…それは御幣があるな。俺は俺の為に、最初からその為だけに動いた結果だ
…ルフィ、お前を手に入れる為のな」
俺の拳を包んだまま、サンジの腕は強く俺を引き寄せそのまま唇が重なった。
途端に口茎を貪るように舌が這い回り、サンジの冷たい指先が乱暴に服を引き裂き
俺の素肌に爪を立てた。
皮膚を通して肉に食い込むと鈍い痛みを与える。
それは俺の心臓を抉り取ろうとしているかの様に何度も胸を弄り、
乳首を捕まえては引きちぎらんとする力で以って引っ張られる。
「…ッ…ッ、ァ…」
未だに終わらない長く苦しい口付けの合間に俺の喉から詰まった様に
噴出す呼吸は痛みゆえに、本当に空気だけが気管をすり抜けて行った。
それはまるで、俺の気持ちや感情さえもサンジの体をすり抜けてしまっていく様で、
あまりにも痛かった。
今までこんな鈍くて鋭く、深く抉る様な痛みは感じた事が無い…。
痛いんだ。
でも、肉体的な痛みじゃない。
そんな物は幾らでも耐えられる。
肉体の痛みならば、幾らでも…。
サンジの執拗なまでの愛撫はルフィの体中を傷つけながら、
支配するかの様に首筋や鎖骨に歯を立てては皮膚を引き千切ろうと必死になり始める。
「イテェッ!!サンッジ…や…よせっッ」
何度も腕を振り上げサンジの背中や顔を殴るのだったが、
譬え殴られて唇を切ろうとサンジは煽られたかの様に愉しげに笑い、
徐々にルフィ自身を追い詰めていく。
首筋に噛み付きながらもサンジの指先はルフィの陰茎に絡みつき、
くねる様に手首を使って掌に精液の先走りを絡め取りながら
柔らかくそして激しく扱きあげていく。
「ヒッ…ぅ…っあ…んん…」
痛みと共に襲い来る快楽の波は足掻らい様が無く、
堪える事も出来ずに飲まれていくのを実感してしまっている。
こんなにも苦しい絶頂を与えられてしまっては、為す術が無い。
性的な行為に関してだけ言うなればルフィは経験が浅く、
普段は自慰行為で処理しているだけだ。
そんな幼い彼の性器をしっかりと握り、精液で指を滑らせると
ルフィの背中が弓なりにしなり足の指先を丸めて口元を押さえながら、全身を震わせた。
「ッッ…ぁあああぁぁぁぁぁっ!!」
押さえても溢れてしまう嬌声と共に濃厚な色をした精液がサンジの掌と
ルフィ自身の腹の上を汚していった。
「…へぇ…随分溜まってたんだな、ルフィ?」
掌をゆっくりと滑っていく白い液体に舌を近づけながら、サンジは目を細めて笑った。
そんな光景を見ながらルフィは
いつか見たサンジと行きずりの女が激しく交わっている姿を思い出していた。
全力で走り抜けたかのように弾む呼吸と上下する胸、
女のふくよかな胸に顔を埋めるサンジに、ルフィは人知れず嫉妬していた…。
誰に?
女に?
…サンジに?
きっと女に対しての嫉妬だ。
サンジに攻め立てられまとわりつく悦り声をあげる女が憎かったのだろう。
しかし、秘かに想い続けていたサンジが自分を手に入れる為だけに、
仲間を裏切り麻薬に体を汚染されて…ルフィはこの上ない歓びに満ちていた。
「ッ…」
過去の記憶に囚われていたルフィを現実に引き戻したのは、
侵入を始めたサンジの指が与えるアナルへの鈍い痛みのせいだった。
それでもルフィの心は引き裂かれそうな激しい痛みと、
サンジへの淡い恋心の狭間で揺れ動いている。
このままサンジと一つに成れるのかと思うと、
恥ずかしさと一緒にまるで女に為ったかのように
自分の体の奥に疼きと熱が宿っていくのを感じていた。
「ルフィ…お前が欲しいんだ」
耳元で熱っぽく囁くサンジの声にルフィは肩を竦ませ埃を被っていた麻袋を握り締めて、
滑り込む余地の無いアナルを無理矢理押し広げられる痛覚に瞼をキツク閉じた。
女ならばこんな苦労はしないのだろうが、
彼のアナルにはサンジの男根を受け入れるだけの余裕も無く、指ですら未だに痛い。
だが、今のサンジにそんな事を気遣ってやるだけの理性など無く、
麻薬のせいなのか彼の痴態に興奮したからなのか、はちきれんばかりに立ち上がった男根を
ズボンから抜き出して、女性で言うなればヴァギナの代わりとしてアナルを使おうと押し当てる。
「…ッぅ…いっ…ヒィ、ッ」
亀頭が襞を押し広げ侵入を始めようとするのだが、
当然ながら僅かに先端が入っただけでそれ以上は奥に進む事すら適わない。
「チッ…」
その事を酷く憎々しげに舌打ち、ポケットからゴムを取り出した。
片方を銜え、片手で袋を開けるとルフィの手を取り自分の男根にゆっくりとゴムを嵌めさせる。
冷たい指とは正反対に熱く猛るサンジ自身に触れたルフィははっとして彼の顔を見上げる。
「サン…ジ…」
この熱が自分の姿や声を聞いていたせいで為ったのなら、そう考えると余計に体の奥は熱くなる。
触れるだけでビクビクと脈を打っているのが解り
サンジの体温は全て此処に集ってしまった様にも思えた。
「なんだ、ルフィお前…欲しそうな顔してんぞ?
何にも知ら無そうな顔して淫乱か…?」
笑い声は、小さく低く聞こえていたが徐々に狂気を帯びて顔を歪ませて、
高らかに響いていく。
しっかりと根元まで包み込んだゴムを見て、彼は舌なめずりをし、
ルフィのアナルの入り口に再びあてがった。
予め滑りが良くなるようにとゴムに付着していた潤滑剤は多少の役目を果たそうと内壁にへばりつき、
一度は仕損じた挿入の手助けをしている。
「イィッ…ひっ…うぁ…くぅっ…」
ギリギリまで押し広げられた穴は受け入れられない堆積に、皮膚が裂かれ深紅の体液を流させる。
「よかったなぁ、ルフィ?自分で潤滑油出せて」
千切られそうな切迫感に浸りながらも、サンジは愉悦に口元を吊り上げ
ルフィのアナルが切れて広がった事を良い事に腰のピストン運動を開始した。
「ギャアアァァッッ!!…ひぃ…イテェッ…イ、テェ…」
異物を受け入れた経験の無いルフィは腰から脳天まで走りぬける激痛に体ごと逃げ様と足掻き、
泣きながらサンジの体を押しのけ様と必死に肩を掴んだ。
「堪らないな…お前の肉を引き裂き、
最初に蹂躙するのが俺だって証拠がこんなに沢山溢れてんだからさ」
腰を振れば痛みに苦しむ喘ぎを叫ぶルフィ。
処女、と言う喩えを使うのがこの場合は正しいのだろうか?
サンジはアナルから滲む血液を潤滑剤の代わりに使い、
激しく深くルフィの奥へと腰をグラインドさせては締め付けを愉しむ。
ぐちゅぐちゅ、と濡れた音とゴムが肉壁と擦れ合う奇妙な感覚…痛みだけがルフィを支配し、
泣き濡れた頬にサンジは手を伸ばした。
征服し、支配し、その体を服従させる。
心底ルフィをこの手で、そして自らで貫き汚してやりたいと願っていたのだと囁く。
「お前の腸の中を俺の精液でたっぷり満たして、溢れてこない様に栓をしようか?
それとも…ケツマンコから溢れてくるのを全部飲み干してやろうか…?」
腰が動くと悲鳴を上げるルフィにサンジはこの上ない優しい声とイヤラシイ声で語りかけ、
彼の足を自分の肩に掛けて高々と持ち上げると上から被さる様に体重を掛ける。
「クッ…は…ヒイィッ!!…うぁあ…」
接続部がルフィにも見える様にと思い切り腰を折り曲げさせて、サンジは何度も上から下へと
突き刺している。
甘くは無い喘ぎ声と止め処なく流れる涙。
しかし、サンジはゴムと言う薄くとも邪魔な感触に眉を寄せて自ら男根に手を掛けて
ゴムを破り裂いた。
ぴっちりと張り付いたままだったゴムは、風船が割れてしまうのと同じ容量で
サンジ自身をいとも簡単にむき出しにした。
障害の無くなった肉襞と肉棒が擦れ合い、前立腺を刺激する。
途端にルフィの声に変化が現れた。
「アッ…ん、ぅ…ヒッァッ…くぅん…」
サンジの亀頭が性感帯をなぞるその瞬間だけは甘く猫なで声の嬌声が響くのだった。
それに気が付いたサンジはルフィの性器を握り、腰の動きに併せて再び扱き始めた。
淫らな水音と、動くたびにルフィの腹の上に撒き散らされる先走りがサンジの性欲を
尚の事掻き立てているのは、その腰の動きが絶頂を報せるかのように早く小刻みに為り始めた。
「あっサ、ン…イィッ…で、ちゃ…う…ふぅ…ああぁぁぁっ!!」
泣き顔を隠す様に、乱れた髪を両手で鷲掴んでルフィはサンジよりやや小さな体を弓なりに撓らせて
2度目の射精を今度は自分の腹にぶちまけた。
放出される精液と共に揺れるルフィの男根を見ながらサンジも一層腰の動きに勢いと
激しさを上乗せして、直腸内に精液を吐き出した。
2度、3度と数回に別けて吐き出されたサンジの精液はルフィの中を滑る様に駆け上がっていく。
しかし、それも一瞬の事。
あとは勢いを失って低い方向へと流れていくだけだった。
激流の様に襲ってきた快楽と苦痛にルフィは放心状態でサンジを見ていた。
射精するその瞬間に首を曝け出し、泣き出しそうな顔をして達する彼の顔を初めて見た。
クスリに頼ったが故に正気ではなかったとしても、彼と自分はお互いに世間には公に出来ず、
受け入れられるとも考えがたい想いに身を焦がしていた。
こみ上げるのは泣きすぎたせいで零れる嗚咽と、愛しさだった。
不意に祈ったのはこの時間がずっと続く事と、この空間が二人だけの世界である事…。
しかし、それはつかの間の永遠。
打ち切られた夢の切れ端の中にだけ存在する戯れにも幸せと口走りたくなる幻想だ。
「おい、お前ばっかりイイ思いはねェだろ?」
凄惨な思い出とは、受けた人間の体と心に何時までも膿み続ける傷跡として残り、
暗闇の棺へと誘うものだ。
二人が余韻に浸っていた処へ密売の取引を斡旋していたクロコダイルが現れ、
未だ繋がっていたままだった二人を引き離すと数人の部下と共にサンジの目の前で
ルフィを犯し始めた。
「ヤメロォッ!!!そいつに触れるな!約束が違うじゃねェか?!」
「おいおい、何でこの俺様がお前の様なクズとの約束を守らなきゃならねェんだ?」
「丁度イイ…お前にこの新薬の実験をさせて貰おうか」
クロコダイルはフェイクファーのコートから小さな注射器を取り出し、
部下達にサンジの体を拘束させ首筋に針を突き刺した。
「ああぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁぁ嗚呼あぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁあぁああぁああぁぁっ」
そこから先、ストロボが光る様に点滅している視界の中で見た光景は、
涎を垂らしながらのたうつサンジの姿とそれをせせら笑う男達の姿…。
それから、俺の上を何人もの男達が跨り思い思いに俺を犯し絶頂を迎える間抜け面。
目を開けても俺はまだ、自分が正気を保っていた事に吐き気を覚えた。
大量の精液を見て、全ての光景を思い出せる自分を憎みもした。
だが、遠くで横たわるサンジを見つけてルフィは腕の力だけで這いずり縋り付いた。
焦点の合っていない視線が、何度も左右を往復し続けて、開けっ放しの口からは
幾筋もの唾液が溢れている。
時折呟くのは訳の解らない単語ばかりだ。
数時間後、歩けるまで体力の回復したルフィは適当な布を体に巻きつけ、
サンジを背負い歩き出した。
何処でも良かった、彼を見てくれる病院ならばどんなヤブでもモグリでも良かった。
けれど、少し歩くとすぐに笑い出す膝に邪魔され、ルフィは中々医者の居るスラム街までは
たどり着けない。
「は…ハハハハッ…」
物陰で休もうにも、手を離すとサンジは笑いながらルフィには見えない何かを追いかけ走り出す始末だ。
それでも何とか医者にたどり着こうとルフィはサンジの手を強く握り締め、歩いた。
手を繋げば廃人らしい死んだ目をしてルフィの背中を睨みつけるのを感じながらルフィは
唯一の希望にすがっていた。
「坊主、そんなジャンキー連れて何処に行くつもりだい?」
眠っていたルフィの上から降りぞぞぐ声に顔を上げると
そこにはファンキーな格好をしたバァさんが梅酒の瓶を片手に仁王立ちしている。
「ド、ドクトリーヌ!?」
裏世界では知らぬ者は無いと言われる傲つく張りな医者の名前をルフィは口走りながら、
益々サンジの手を強く握り締めた。
消毒液の匂いが鼻に付く病室で、ルフィは目を閉じたままのサンジの手をそっと握っていた。
クレハに運良く拾われたルフィは
自分の左目の下にナイフで刺された傷があった事を初めて気付かされた。
サンジの事で頭が一杯だったせいで自分自身の怪我など痛みも感じていなかったのだろう。
しかし、そんな事よりもサンジが打たれた新しい麻薬に対して血清が無かった事に
ショックを隠せなかった。
成分の解析にも時間がかかり、中毒症状を治すには一昔前の方法以外に無かったのだ。
禁断症状が出ても麻薬を使わず、血液の中から成分が完全に中和され排泄物となって出るまで、
隔離病棟での闘病生活を強いられる。
それを始めた頃のサンジは酷い禁断症状に手を付けられず、故に面会謝絶になっていた。
まだ、血清は作られていない。
あれから2年も経ち、クレハの紹介でルフィはある男の云うとおりに孤児院に入る代わり、
その男にクロコダイル達の組を潰してもらった。
「…お前はあいつの死んだ息子に良く似てる、それに免じてお前の望むとおり報復を」
赤髪に三本傷の男が笑いながらそう言った。
ルフィはたかだか孤児院に入るだけで憎むべき奴等に制裁を加えられるのなら、と快く承諾したのだった。
目を覚まさないサンジの傍でルフィは彼が正気で居られる間にその事を話そうと思っていた。
それから、ここを退院できたら二人で孤児院の近くに部屋を借りて
憧れた「普通」の生活をしようと言うつもりだった。
「Greensleeves was all my joy
Greensleeves was my delight
Greensleeves was my heart of golb
And who but my Lady Greensleeves」
不意に思い出した歌をルフィは口にしていた。
溢れる涙と共にそれを歌っていたのだ。
「…懐かしいな…グリーンスリーヴスか?」
まるで歌に応えるかのようにサンジが目を覚ました。
いつ発作が起こるか解らない状況であったが為に拘束ベルトは外せなかったが、
ルフィは覆いかぶさる様にサンジにしがみつき泣きじゃくった…。
#
ああ恋人よ、ひどい人だ
あなたはつれなく僕を捨てた
僕はあなたを慕い
一緒にいるだけで嬉しかった
グリーンスリーブスは
僕の喜び
グリーンスリーブス
は僕の楽しみ
グリーンスリーブスは
僕の喜びそのもの
グリーンスリーブス
あなた以外に誰がいよう
あなたに蔑まれても
かえってそれは喜びとなる
恋の虜となった僕は
変わらぬ愛を捧げ続ける
グリーンスリーブスは
僕の喜び
グリーンスリーブスは
僕の楽しみ
グリーンスリーブスは
僕の喜びそのもの
グリーンスリーブス
あなた以外に誰がいよう
遠い日の思い出、
それが彼を再び正気に戻したのなら奇跡と言えよう。
「でもな、ルフィ…俺はあの時から汚れてしまったんだ…
この汚らしい血を全部入れ替えるから…昔に戻るまで入れ替えるから」
「サンジ…いいよ、そんなの。お前がどんなに汚れてても、
俺がお前を思う気持ちは変わらない。 早くこの暗い過去と言う名の棺から出て行こう?」
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