ヤケド 





「最低!最悪!マジやめろって!」 



ゆっくりとベットに横たわる三蔵への 
大きく叫ぶような非難の声。 
まるで構わない、というかの如く 
・・・・・というかまるで構ってないのだろうけれど 
悠々と煙草を細い指先で玩ぶ三蔵に噛み付くように 
怒鳴った。 


「寝ながら煙草なんて吸ってたらそのうちいつか怪我するぞ!」 




そう言っても 

何を可笑しなことを、 

というかの如く方眉を軽く上げるだけの三蔵。 
なんでこんなに意味不明に自信たっぷりなんだろう。 
なんて思いつつ、再度咎めるような声を上げるが 
またもや完全黙殺。 



「いい加減に!」 



そう言いながら煙草を奪うように手を伸ばすと 
その手首をグイ、と引っ張られる。 
引っ張られて、倒れ込む瞬間、目の端に映った三蔵の瞳が 
何処か愉しそうだなんて、
知りたくなかった事を感じ取ってしまった俺は 
逃れようと振り上げた腕の一部が三蔵の右腕に当たる。 




「うわッ!」 
「馬鹿が!」 



揺れる赤い、小さな炎。 


くるくると回転しながら、煙草が俺の真上から 
落ちてぶつかる、と思った瞬間 
とっさに逃れることも考えたけれど今のこの体制では 
それは無理で、思わず閉じそうになる目に入ってくる 
大きな手。 









「何すんだよ!」 
「テメェの面にまともに落ちるよりマシだろうが」 










そう言い返してくる三蔵の腕をつかんで引っ張り 
ベットの横に置いてある水差しの水を布に含み 
冷やす。 
しばらく冷やすと火傷の部分の赤みが引いてくる。 
ぶつかったのはほんの一瞬だったのが幸いしたのだろうか 
肌の白い三蔵の手のひらに淡く色付く赤い色は 
どこか生々しくて痛々しい。 













「俺、三蔵の手結構好きなんだけど?」 
「手、だけか?」 
「・・・・・はぁ?」 









何ふざけたことを、と 
非難の目を向けるけれど悠々とした様子の三蔵。 







何時もながら 
呆れるを通り越してため息が出る。 








なんて頭の端で考えつつ、 
ベッドから降りて、少し離れた所にある机の上にある 
小さな箱からプラスチックの小さなものを取り出して 
再び三蔵の元に戻る。 
恐らく心得ていたのだろう。 
差し出した薬を自分で取らず、ほら、と 
手を俺の方に向ける。 




「・・・俺に塗れって?」 




睨むような目線で問いかけると 
テメェの所為なんだから当然だろう? 
と返してくる。 





そりゃぁ、もちろん俺が塗るつもりでいたし、 
結果としては同じなんだけれど、この当然だとばかりの態度。 
偉そうというか、不遜というか。 





三蔵にとっては大したことではないのだろう。 
けれど、三蔵が怪我をした・・・しかも俺を庇って。 
それが俺にとってどんなに衝撃的な事か分かってないし 
多分、解りたくもないんだろうなぁ、なんて思う。 

・・・いや、解ってるからこそこんな風に 
からかいのネタにできるのかもしれないけれど。 






「っつ!テメェ!」 
「じっとしてろって言ってるだろう?」 
「・・・・・この、馬鹿力が」 






顔をしかめたまま。 
不満げに傷に負担を掛けないくらいの力で 
幾分か乱暴に薬を塗ると不満を洩らす三蔵。 




「こういう傷、作るなよ」 
「すぐ治る」 

ため息を付きながらそう呟くけれど 
まったく気にした様子はない。 


「何で何時も怪我するすれすれのような事するんだよ」 
「何時もは怪我まではしないだろうが」 
「でも今日は怪我しただろう?」 




そう言い返すと 
テメェが余計な事するからじゃねーか。 
なんて、しれっとした顔で返してくる三蔵。 










「俺が嫌なんだって。三蔵が怪我しそうになるの。」 













心臓に悪いし。 
怪我するんじゃないかって眼が離せないし。 







そう、素直に 
だけどこんなことを白状するのは何だか悔しくて 
自然に聞こえるか聞こえないか位の小さな声で 
呟くと三蔵の口の端がかすかに笑う。 
楽しげに細められた瞳。 











「だからやってるんだろうが。」 










まぁ、今回のは失敗して本当に怪我したがな。 
なんて洩らす三蔵。 














・・・・・ムカつく。 












終劇





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