狂った男と狂った女房
   There was a mad man and he had a mad wife,

 狂った街に暮らしてた
   And they lived in a mad town: 


 彼らの子供は 三つ子だったが
   And they had children three at a birth,

 三人みんな狂ってた
   And mad they were every one.
 





あるひ、おじさんが「おうち」にやってきた。
「さあいこう、きょうからパパとよびなさい」
さしだされた手をぎゅっとにぎると、まんまるいおつきさまが窓からかおをだした
つきのひかりにてらされたおじさんの顔はにっこりとやさしいえがお。
つられてオレもわらいかえす
ながいみちのりをあるいて、あるいて、たどりついたのはいっけんのくろいくろいおうち
ざっそうだらけ、ごみだらけ
えたいのしれないなまぐさいにおい。
こんばんは、はじめまして、あたらしいオレの「おうち」



てをつないだまま、地下へとつづくかいだんをおりる。かんかんかん、くつのおとがひびいて
きもちわるい
かいだんをおりたら、ながいろうかをふたりならんで無言であるく
てつごうしのおへやが、ひとつ、ふたつ、みっつ・・・
よっつめのてつごうしのへやの前でおじさんがたちどまり、にぎったままの手にひっぱられるように
オレもたちどまった

 「しゅう、れん、」

おじさんは、すごくきげんがいいらしい
にくづきのいい頬をもりあげ、にたにたときもちわるい笑みをうかべ、べっどのぱいぷに鎖でつながれた
ふたりのおとこのこをよんだ

 「・・・・・・・・・・・」

 「なに、そいつ。」

 「きょうからおまえたちのおとうとになった悠一郎くんだよ」

「しゅう」とよばれたしょうねんは、あおあざだらけのかおで「ふうん」と一言だけかえすと
それっきりきょうみをなくしたように壁へとねがえりをうった
れん、とよばれたしょうねんは、いきているのかしんでいるのかまばたきもせず目をあけたままてんじょう
のしみをみつめてる

なかよくしなさい。
おじさんはてつごうしをあけ、オレをむりやりおしいれるとニタニタとわらいながらうえへともどっていった
かんかんかん、くつのおとがきもちわるい
いたむあたまをふって、しょうねんとしょうねんのあいだにおかれたべっどにすわる


 「だいじょーぶ?」

 「…そいつに、何いっても通じねえぜ。」

 「なんで?」


 「くるっちまってるからさ」

「しゅう」とよばれたしょうねんは、なにがおかしいのかケタケタとおなかをかかえておおわらい
ふつうじゃないのは「しゅう」のほうだ

てんじょうのしみをみつめたまま、みうごきひとつしないしょうねんをのぞきこむ
ひかりのやどらない目
しゃついちまいしかきてないからなげだされた足がさむそうだ

 「これ、かけてていーかんな。さむいだろ」

おれのうわぎを「れん」のかはんしんにかけてやる

こくん、

なにをいってもみうごき一つしなかった「れん」ののどが上下にうごいたきがした。


 「うごいた!」

 「は?」

 「うごいたってば!」

 「だからなにが」

 「れんの喉がだよ!よかったー、ほんとにしんでたらどうしよーかとおもったー」

ばかじゃねーの、
「しゅう」がおもしろくなさそうにしたうちをした
ムッとして、オレもいいかえす。なんだよ。

 「しんだら、たべられるんだから、ここにいるってことは まだ いきてるにきまってるだろ」

 「・・・たべられる、ってなに」

 「こどもの肉と血は、とってもおいしいんだって。ババァがいってた。
となりの牢にもそのとなりの牢にもオレたちみたいなコドモがいたのに、なぐられておかされてきりきざまれて
力つきたやつからたべられてった
もうだれものこってないよ つぎは、オレかな、オマエかな、あははははっあはは」


おれはくびをかしげた
たべられるのってそんなにいやなことなの、おいしくたべてもらえるならいいじゃん
そうくちにだしたら「しゅう」にへんなものでもみるような目つきでにらまれた

だって、そうじゃないか、しぬしゅんかんまでひとに必要とされるなんてまるでゆめのようだ。

ゆきのふるよる、オレをうんだ母さんは、施設の前にゴミでもすてるかのようにちいさいオレをなげすてた
おれがおぼえてる「ははおやだった」ひとの記憶はこれひとつだけ
さっていく馬車のなか、ははおやはただのいちどもふりかえらなかった

おれはごみどうぜんだったんだ
うまれてきたいみなんてない
いちやかぎりのおとことコンドームなしでセックスして計画性もなくできてしまった。
おろすのはからだにふたんがかかるから「ただ」うんだだけ。
おれの生はひとに祝福されるようなものなんかじゃなかった


 
 「オレもくるってるけど、おまえもくるってるよ。ふつうじゃない!」

ケタケタケタケタケタ、
あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは

「しゅう」はあたまのねじがはずれたように、てあしをバタバタさせて笑いつづける

うまれたしゅんかんから、オレのまわりはみんなみんなおかしいものだらけだったから
いつかはこの生活にもなれるひがくるかもしれない
いつかじぶんがスライスされ煮込まれ焼かれ食されるその瞬間をおもいえがきながら、オレは恍惚に笑った。




 (こんばんは、はじめまして)


 (未来のおれ)




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たずまとみはとしゅん。

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