「やだ…いやだ……」
子供のように縮こまって、嗚咽を隠そうともせず泣き続ける三橋の頬を
パンッ!と思い切り平手で叩いた。
いま叩いたので、一体何度目だろう。
数えていないから分からないけど、きっと両の手の数は優に越えているはずだ。
体の中にある水分、全部出しきっちまったんじゃないかと思う程、延々と涙を流し続けたせいで
三橋の目元と頬は悲惨なまでに真っ赤に腫れ上がっていた。
 「…さっきから、それしか言えないのかよ」
いまにも込み上げそうになるどす黒い醜い感情。
口を開けば暴言を吐き出しそうで、一呼吸置いてゆっくりと呟く。
その声音が思いの外低くなってしまったせいか、三橋はビクッと身を竦めるとカタカタと歯を
鳴らしながら田島を見上げた。
 「泉に、なに、された。」
声を荒げないように、ゆっくりと一言一言発するが語尾が見っとも無く震えてしまう。
 「、めなさ…ごめんなさい」
 「!…っんなんがききたいんじゃねえんだよ!三橋っ、いえよ、あいつに何された!!」
三橋は裂かれた服を掻き集める様にして、胸元に抱くと青白い顔で首を何度も振った。

 「・・・・・・・・、
  そんなに、あいつのこと庇いてーの?」

 「!…ちが、っ」
蹲る三橋を冷めた双眸で見下ろすと、もう一度手を振り上げてその頬を叩きつける。
脳味噌の神経が麻痺しているみたいだ。
あんなに、好きだった仲間の事をこんなに憎む日がくるなんて。
あんなに、好きだった仲間の事をこんなに壊してやりたいと思う日がくるなんて。
想像したこともなかった。
―オレ、なにやってんだ。泉が悪いんだろ。三橋は、何も悪くないのに…。
…わかってるはずなのに。なんで、こんなにイライラするんだろう。
 「……もーいい。」
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい
壊れた機械のように、何度も何度も謝罪の言葉を呟く三橋に小さく舌打すると
田島は倉庫に三橋を一人残したまま振り返らないように全力でグラウンドへと走っていった。

苦しくなんてない。
痛くなんてない。
涙なんて見せても僕の心は動かない。



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