いつものように、軽く笑ってこれは、悪い夢なんだよと、大丈夫だと、…そういってほしかった。 夢遊病。 その身体は、俺の腕の中でピクリとも動かなかった。 俺と二見を囲うように、赤い水溜りが円を描いて四方八方へと広がっていく。 ―何がなんだか分からない。 何故、コイツが動かないのか 何故、コイツと俺はこんなに赤い水で濡れているのか 何故、高階が俺を汚いものでも見るような目で俺を見ているのかも。 何もかもが分からない。 ―いや、分からなくていい。 二見は寝てるだけ、すぐに目を覚まして、いつものように、飄々とした姿で 「おはよう、心配した?…こんなの冗談だよ」 って笑うんだ。 俺の好きな顔で。 「――――――――――――ッ!」 ――ガタ、ガタン。 机を揺らし、椅子を後ろへと後退させながら半身を勢いよく起き上がらせる。 震えの止まらない手の甲で、汗ばんだ額を軽く拭く。乾いた口内で唾を飲み込んで、状況を把握するべく周囲を見回した。 どうやら、ココは教室らしい。見覚えのある制服をきた男女が急に起き上がった俺を驚いた様に見つめている。 「…どしたの。顔色悪いけど、大丈夫?」 耳に慣れたその声に、視線をあげる。やっぱり見覚えのあるその容姿に俺は息を呑んだ。 「っ…ふた、み。」 二見は、俺が微かに息を呑んだのを感じ取ってくれたらしい。 近くもなく遠くもない、微妙な立ち位置から顔を覗き込んで、俺に触れようとした手を引っ込めると 斜め向かいの位置に腰をかけ、何も言うでもない。ただ、だまって微笑んで俺を見ていた。 その笑顔が、…何故かとても痛くて…。 「俺、何で…」 「そんなのこっちが聞きたいよ。授業が終わった途端、ガクッといっちゃったからさ」 夜更かししすぎて寝ちゃったんじゃん? → ------------------------------------------ 戻る |