少年は、わらう。








「っぐぎ、……あ、あ…っはぁ…あ…―がッ…!」
気付けば、すべてが赤かった。
腕も足も、この眼球に映る「モノ」すべてが。
身体は一糸纏わない姿で、至る箇所が大量の血液で濡れている。胴体から伸びた四肢は見るも無残なまでに痛めつけられており
(半ば千切れ欠けていたり、肉片が飛び散っていた。)
あまりの激痛に痛覚がそれを処理できず、業火で皮膚を焼かれているような…そんな熱さだけしか感じ取れない。
何故、こうなったのかなんて知るわけがない。
―――…いや、訂正するなら『知りたくない』だ。

―――ざく、…グジュ、…グジュ……。
皮膚を貫く音と、裂かれた皮膚から除く血肉を舌で蹂躙する音、そして「ヤツ」の耳障りな笑い声が混ざり合い室内を雑音が包み込む。
「アーチャー」
それまで鳴り止まなかった耳障りなソレ<笑い声>がピタリとやみ、代わりに、耳障りな声で男<衛宮士郎>はその名を呟いた。
「アーチャー」
泣いているのか笑っているのか分からない、そんな表情を浮かべて。
衛宮士郎は、縋り付くようにアーチャーを見つめた。
―――涙は、流していないのだから、…それなら泣いてはいないのだろうが。

「アーチャー。」
好い加減ウザイほど、その五文字の単語しか出てこない相手に苛立ちを感じつつも、決して何も言わない。
この口が発するのは、救済を求める言葉でも、罵声でも、…ヤツの名前でもない。
ただ苦痛に耐える声だけ。
「…―それでいい。オマエは、他の誰にも、…「マスター<俺>」にも屈することは許さない。」
そして男<衛宮士郎>はまた、魔力で回復し始めたその身体を痛めつけ始める。
少ない魔力しか供給されていないこの身体では、傷口を回復させるので手一杯だ。
鎖で両腕を後ろで拘束されているのだが、それを千切ることもままならない。
「…―!?」
いっそのこと意識を手放せたら楽なんだろうか。そんな事をぼんやりと考えていると、不意に伸びてきた腕が乱暴に両脚を押し
広げたことに反応し遅れた。
「どうしたんだよ?アーチャー。そんな顔して…。
これから俺がオマエに何をするのか、わかってんだろ?童貞じゃあるまいし。」
――クスクス。
男は薄い唇を弧に描き、心底おかしそうにわらう。
ソレに対しアーチャーは、能面のような表情を一変し眉間に深い皺を彫りこみながら覆い被さってきた男をどうにかしようと腕を
縛めた鎖をガチャガチャと鳴らす。
――つぷ。
双丘に沈んだ指が、孔を押し開く。
「っ、く、……っ」
衛宮士郎が何をしているのかわからない。
信じがたい、だが信じるしかないこの現状を目の前に、アーチャーは目を見開いて ただ、言葉にならない叫び声をあげた。
―――気持ちが悪い。
「…なんだよ。俺がこんなことして、そんなに吃驚した?そんな捨て狗みたいな目でみるなよ…。
…ああ、ごめん。アーチャーは、痛い方がいいんだよな。」
恐る恐る出し入れしていた指を一気に三本に増やす。

――ブチッ。

「あ、つっ…!!」
ガチガチと、自身の歯がぶつかり合う音がなる。
そういう目的で使用したことのない孔を、乱暴に扱われたせいで、孔の入り口は裂け内壁は爪で傷が入り、
血液が衛宮士郎の指と双丘をぬらしていた。
アーチャーの苦痛の声に、満足そうに鼻で笑うと見せ付けるようにその指を舐めとり、
いつのまにか勃起した衛宮士郎のソレを後ろへとあてがわれていた。

「―――や、めろ……ッ」
一度たりとも体験したことのない恐怖に、初めて身を竦め助けを求めるように相手を見遣る。
その懇願するような視線を、衛宮士郎は冷たい表情で振り払い 落胆した、といわんばかりに舌打ちした。
「っは、…くっ……ハ、あ、あ、あ…っつ」
それが合図だったかのように、衛宮士郎は無遠慮に自身を中へと強引に押し入れていく。
本来許容量じゃない「モノ」を「ソコ」に入れているせいか相手が身体を進める度に、内面から骨が軋む音がした。
血が出ているのか、相手の熱でそうなっているのか分からなくなるほどに内壁は熱を帯びていき
ソレが最奥に達する頃にはその熱は身体を焼き尽くさんばかりの勢いになっていた。
「アーチャー、…俺が憎いかよ。…殺したいだろ…?」
―――狂ってる。
こんな「俺」は知らない。
「俺」はいつだって、他人の為だけに生きてきた。自分のことは二の次、三の次で、他人の幸せを第一に考えて走ってきたんだ。
ここまで狂気じみた独占欲を丸出しに、誰かを欲することも執着することもなかったはず。
「…そんなに…っグ、‥死にたいの、なら、勝手に死、ね。」
息も絶え絶えに伝えたいその一言だけを口に出すと、かつての俺だったもの<衛宮士郎>は、一層強い狂気の色を双眸に灯した。
そして、止まっていた動きが乱暴に再開される。
「っ……っ…」
最早それは、「セックス」と呼べるような行為ではなかった。
人を相手しているような労わりや気遣いはない。ただ出し入れをするだけで、愛撫もなにもない。
ただ、出し入れを繰り返し、男の絶頂がきたら中へと汚いソレ<精液>を排出される。
何度も何度も肉便器のように扱われ、身体の至る箇所が固まった血液と精液とで酷い痒みを訴えてきても
その行為は終わらなかった。

「―次は確実に…俺を殺せよ……?」
「……―…?」
そう言って、衛宮士郎はこげ茶色の眼球に影を落とす。
アーチャーは手放しそうになる意識を必死に繋ぎ止めながら、不可解なモノをみつめるような視線で衛宮士郎を見つめた。
「じゃないと、殺しちゃうから、さ。」
―オマエを。
トン、と人差し指でアーチャーの心臓あたりを小突くと、下半身の猛りを限界ギリギリまで引き抜き、そして一思いに奥へと突き刺した。
「――ァ、」
いまだ嘗て感じたことのない痺れとなんとも言えない圧迫感が交じり合った鈍い痛みに、小さく息を吐き出して下腹部をみやる。
どくどく、と中に吐き出される液に吐き気を感じながらも自身の腹に散った精液で、自身も絶頂に達していたのだということに気付く。
舌打ちをしようと薄い唇を開きかけるが、それすらもかなわず。
唯襲いくる睡魔に、無意識のうちに瞼を閉じていたのだった。



















------------------------------------------
戻る