「みーはしー!」

仲間の歓声の中呆然と突っ立っていると、走ってきた田島に肩を組まれた。
勢いづいて三橋も田島も前へとつんのめるが、ぎりぎりのところで足を踏ん張り二人そろって土の上を転がる事だけは
阻止できた。
 「ナーイスピッチ!やったじゃん」
 「う、う ん …かっ、、かてた、ね!」
 「豚カツパワーすげーなァ…あー、あれは美味かった……つか、うわ、思い出したらまーた腹減ってきたー!」
「今日の夕飯なんかなぁ〜」なんて呑気に涎を垂らす姿にはプレイ中の面影すら見当たらない。
そんな田島を横目に、昨晩のことに思いを馳せる。
合宿所への帰り道に田島と話していた通りに夕飯は豚カツになった。
それにも驚かされたが、彼のいったとおり三星との試合に勝てたことにも正直すごく驚愕した。
―田島くんの、言葉には魔法が宿ってるみたいだ。言ったことが本当になるなんて、すごい…。

 「おまえ、また変なこと考えてんだろ。」
 「うひっ、 へ へんな、こと・・?」
まるで、全てを見透かしているような真っ直ぐな視線に居心地がわるくて、少し身じろぐ。


 「変な顔だったから。」


 「…えっ…へ、へんな、かおっ?」


 「‥あ、ちげーよ?顔が変とかじゃなくて、表情がいつもと違ったからさー‥すぐ分かった。」
そんなにおかしな顔してたかな。と首を傾げると田島が、ニヒ。と笑って、三橋の背中を強く叩いた。
 「オレがどーとか阿部がどーとかそんなんじゃなくて、この試合勝てたのは三橋の実力、だろ!ゲンミツに!
あれだけ点数押さえられたのはマジスゲーと思うし、もっと自信もって喜んでいいんだぞ」
 「ふひっ、じ、実力…… ゲ ンミツに?」
 「そーなの!ゲンミツに、なっ!」
二人顔を合わせて笑いあっていると、歓喜に騒ぎあっていた部員達がいつの間にかベンチへと集まっていることに気付く。
 「おーい、田島に三橋っ、早く来いってー」
水谷の呼び声に慌ててベンチへと駆け込むが、時既に遅く青筋をたてた監督に二人そろって頭を掴まれた。
握りつぶされたらどうしよう…。
果物をやすやすと握り潰したあの場面を思い出して、ぐるぐると視線を泳がせていると同じように視線をぐるぐるさせた
田島と目があった。
これには田島も弱いらしい。
顔面蒼白になりながらも、逃げようと必死でもがいている。
 「ったく。あんた達二人は、試合終わった途端に集中力がきれるんだから。人の話はよくきく!
呼んだらスグ来る!わかった?」

 「ふ、ふひ…」
 「へーい、………モモカンこえーっ」
頭を解放された田島は、何事もなかったかのように上機嫌に口笛を吹きながら三橋と栄口の間を陣取った。
彼の切り替えの早さには、尊敬の念すら感じてしまう。
――オレは、まだ落ち込んでいるというのに…。
そんな事を考えながら隣に座った田島を見つめていると、田島も視線に気付いたのか「ん?」と笑って三橋に双眸を向けた。
―パチン。
話を切り替えるように監督が手を叩く。
ハッとして、監督に視線を戻すと監督が皆を見渡しニッコリ微笑んだ。
 「みんなっ、今日は練習試合お疲れ様!慣れないチームで初めての試合にしちゃ、上出来…と、言いたいところだけど
水谷くん、あんなボール球落としちゃダメ。田島くん集中するのはいいことだけど、サイン見落とさないように!三橋くんも」
 「……?」
キョロキョロと周りを見渡して、周りの視線が自分に集まってることに気付くと自分を指差して首を傾げる。
 「そう、三橋くん。…全く、あなた意外にだれがいるっていうのよ。4番にシュート投げたときココはダメ、打たれる!
って直感で感じてたんなら、いくら捕手がサインを送っても首を振ること!」

 『オレの言う通りに投げろよ、首 振る投手は大嫌いなんだ』

分かった?と首を傾げる監督に、ふいに阿部の言葉が頭に過ぎった。
 「え、あ…」
阿部は、監督の言葉に同意しているのだろうか?
ぐるりと視線を一周させ阿部の姿を探すと、むっつり黙り込んだままそっぽを向いた阿部が遠くに見えた。
― 阿部、くん、やっぱり首振る投手は嫌、なんだ。
答えを促すように、三橋の顔をじっと見つめる監督にキョトキョトと視線を泳がせる。

 「はいはーい!注意しまーっす!んでも、これで三橋も晴れて西浦のエースだし、今日はお祝いだよなっ。
夕飯がたのしみー」
それまで隣で三橋の様子をじっと窺っていた田島が、困っていた三橋に気付いてか元気良く挙手して立ち上がった。
 「お祝いは関係ないだろ。つーか、おまえいっつも飯の話だな。」
 「だって、腹減ってんだもんよー」
ビクッ、と体を竦めて田島を見るが三橋には一瞥もくれず泉と談笑している。
―あれ…いま、


 「…ま、何はともあれ、お疲れ様ってことで今日は合宿所戻ってすぐご飯にしましょう。着替えたら、校門に集合ね
 解散!」
 
 「「「かれさまーっす」」」




  
------------------------------------------
戻る