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 「四番、田島くん大きく振りかぶってー投げましたっ!」

―ボスッ。

 「〜〜〜〜っ!??」
 「めいっちゅー!すげー、オレ!」
後方から弾力のある柔らかいものを中てられたせいで軽い衝撃で前へとつんのめると、
一置き遅れて頭を摩りながら、聞き覚えのある声の方へと振り返った。
頭の後ろで両手を組んで、ニッ、と白い歯を見せながら歩み寄ってくる少年は、田島だった。
 「ふ、ひっ、たじまくん。」
 「モモカンが、晩飯準備にとりかかるから早く着替えろってさー。なぁなぁ今日の飯なんかなぁ?
ま、オレは好き嫌いないしーウマけりゃ何でもいいんだけどさっ」
頭に命中させた足元に転がったままのクシャクシャの服を取ると、それを広げて、ほい。と差し出す。
 「あ、ありが、と…」
おずおずとソレを受け取る三橋を見届け、田島は大きく背伸びして三橋の隣へと腰掛けた。
 「三橋、野球すきか?」
 「すっ、すきだよ!」
田島の問いは余りにも突飛で唐突だったが、それはいつもの事。
頬を紅潮させながら一生懸命に自分の意思を伝えれば、田島は大きく頷いて満面の笑みで
「そっか。 オレも野球すきだ!」と満足そうに呟いた。

 「阿部ってさ、短気だろ。言葉が下手っつーわけでもないのに必要最低限の言葉しかいわねー。
んで、相手に言いたいことが伝わってねーと切れる。だから相手が勘違いすんだよな。」

 「田島、くん?」
 「さっきのだってさ、三橋とコミュニケーションとりたかっただけだと思うぞ。」
さっきの。と指され、そこでやっと先刻の阿部とのやり取りを思い出した。
練習終了後、田島に背を押してもらいながら軽く柔軟をしていると目前にいた阿部と目があってしまい
そこからは、いつものパターンだ。
阿部が何気ない話を三橋に振ったのだが、何と答えれば良いのか判断がつかずついどもってしまった。
最初のうちは良かったが、それが二度、三度と繰り返されるうち阿部の我慢ゲージが限界の域に達して
しまったのだ。
これだけなら、いつもと変わらない。
だが、いつもと違った点が二つある。
一つは阿部がいつにも増して虫の居所が悪かったこと。もう一つは、イライラしている気配に気付いた
三橋がいつも以上にビクついてしまったことだった。

 『お前、ビクつかれるこっちの身にもなってみろ!オレの顔みりゃいっつもビクビクビクビクしやがって!
 …本当に、オレと…バッテリー組んで、このチームで野球やってて楽しいか?』
冷めた表情で、睨み付けて来る阿部を見た時は足元が崩れるような錯覚に陥った。

―オレ、ここで阿部くんに嫌われたら もう 野球できるとこ、ない…。

しどろもどろになりながら言葉を捜していると、二人の険悪な空気に気付いた栄口が間に入ってフォローしてくれ
そして、田島がいつもの如く話の方向を180度変えてくれた事で場の空気は幾分和らいだ。
その後のことは、よく覚えていない。
気付けば皆下宿先へと戻っており、誰もいないグラウンドで頭を冷やしている最中に田島が現れたのだった。

―田島くんは、優しいな‥。それに、凄い。オレが一人で考え込んでるの知ってて、きてくれたんだ。

 「向こう戻ったらさ、阿部とやる野球、好きだー!って言って見ろ。アイツ喜ぶぞー」
 「う ん、…うん!あっ、あ、ありが と‥田島くん!」
田島の笑顔に負けじと、三橋も歯を見せ思い切り笑う。
初めて見るその笑顔に、田島は吃驚した様に一瞬笑みを止め無表情でじっ、と三橋の顔を見つめた。
だが、それも長くはもたずスグに元の笑みを浮かべると仕切りなおしだ!と言わんばかりに三橋の背中を
ばんっと叩いて立ち上がった。
 「うしっ、やっと笑ったなっ。じゃ、いこーぜ。もーオレ腹へってクタクタ〜」
一置き遅れて、三橋も立ち上がると二人足並みを揃えながら下宿先へと向かった。
 「晩御飯、な、なにかな?」
 「希望としては、豚カツだな!豚カツ食って明日の三星との練習試合にもゲンミツにかーつ!」
 「・・・・・・・・」
 「ぬおっ!!大丈夫か、三橋!お前、明日の試合忘れてただろー」
へろへろと体をしならせ地面に伏っしそうになったところを田島に支えられた。
みはし、へんなかおー!三橋の顔を指差して大笑いな田島と明日の練習試合で頭を悩ます三橋。
時折、談笑を交えながら宿に戻ると外で待ってた阿部に「遅いっ!」とこってり絞られた。
だが、田島に言われたとおりの言葉を言ってみると見る見るうちに頬を紅潮させ、顔を隠すようにそっぽを
向いて一言謝られた。
それを見た三橋と田島は互いに顔を見合わせ、笑いあって。
沈み掛けた夕日が、三人を照らしている。

―試合前のプレッシャーに勝る位、良いことが沢山あったから…今夜は、眠れるといいな。






  
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