もう戻れない。
自分が自ら汚れて、みんなの手が汚れないようにするから…


『戻れない過去』


目の前には人だったものが転がっている。
そう、人だったもの…
つまり死体
自分が殺した。支給されたデイバックに入っていた武器(いわゆる拳銃というもの)で…
理由は簡単だった。目の前に現れたから、それだけ。
「…ごめんね。君の事は忘れないから…」
僕はそうつげて、立ち去った

この人殺しのゲームにのっているわけではない…とは言い切れない。
現に今、人を殺した。
でも好きで殺したわけでもなく、生き残りたいから殺したわけじゃなく
自分勝手なことかもしれないけど、大切な同級生が、大切な後輩たちが、
何より大切な仲間たちが、
殺し合うのを見るのがいやだったから…
ならば僕がすべて背負ってしまおうと…
「…牛尾…なのだ?」

後ろから声がした。振り向かずとも声でわかる。

「鹿目くんか…」

声が震えていたからわかる。僕に怯えている。
…しょうがないけどね…

「…それはお前がやったのだ?」
ソレとはこの足元の死体の事を言っているんだと思う。というかそれしかないだろう。

「そうだよ」

振り向いて、笑顔で答えた。
ソレモヒドイツクリ笑顔デ…

「牛尾は…それでいいのだ?」
「え?」
検討違いの言葉を聞いて、少しだけ、拍子抜けの声わ発してしまった。
「お前の考えてる事は、大体解るのだ。」
鹿目が、つらそうな顔をして言う。すごく痛そうな顔をして言う。
「でも…もっと他の方法を考えたりしないのだ?このままみんな死んじゃっていいのだ?
殺しちゃっていいのだ?」
あいかわらず痛そうな、辛そうな顔をして言ってくる
やめてくれ、
決心が揺らぐだろう…?
「牛尾は、すごい辛い顔をしてるのだ。」
やめてくれ
お願いだから
涙が出てくるから
「みんなで野球したがってるのは、一番おまえなのだ牛尾。」
その言葉は止まらない
やめてくれ
決めたんだ
決めたんだ
「…鹿目くん」
ニッコリ笑った。銃をかまえて
「僕は決めたんだ。」
引き金に手をかけた。
鹿目の顔がピクリと引きつる。
「ごめんね、僕にはこれしか浮かばない、他の方法なんて浮かばない。」
淡々と台詞を紡ぐ。拳銃を持っていない手がわずかに震えた
「牛尾!!」
「ごめんね」
言い終わるのが先か、引き金を引くのが先か、もしくは同時か―――
乾いた銃声が何回か響いた。


戻れない過去は今も深く胸の中に残って…

「やーいコゲ犬―!!」
「うるさいバカ猿」
「猿野くんやめるっす!」
「犬飼くんもクールダウンですよ!」
「YO-凪☆元気にしてるKa!?」
「え!?な、なんですか先輩」
「コラ虎鉄!ナンパはやめるっちゃ!」
「凪、大丈夫か?あのナンパな先輩は一体なんだっつの!」
「凪ちゃん…大丈夫…?」
「ほらっ!みんな楽しくやってるのはわかるけどちゃんと練習してね!」
「「はい!」」
「まったくみんな元気だね」
「真愉快也」
「そうなのだ?ただうるさいだけなのだ」


懐かしい思い出が頭の中に散った。一昨日までずっとそうだったのに懐かしい。

まるで走馬灯?そんな感じだった。
でもソレが頭に走ったのは一瞬。
でもそれだけで、思い出すには十分で…
涙がつたった。血が飛び散っていた。
気づけば、わずかに震えていた手の震えは止まっていた。

そして僕は歩き出す…
戻れない過去を背に向けて






 
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