約束というモノは、脆くはかなく
崩れ去る…


『死と隣り合わせ』


走っていた。
がむしゃらに
足が痛くなるくらい。
でも足は止まらない脳からでる危険信号を無視して、走り続けて止まらない。
足の痛みより恐怖が勝っているから。
目の前で殺された先輩。
おかしくならないほうがどうかしてる。
『うるせえぞ!喋ってんじゃねえ!!』
喋っていただけでナイフを投げつけて教え子をためらいなく殺す監督だった人
恐怖に勝てる人なんて狂ってるに違いない

こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい
心を恐怖が支配する

空は暗い、暗い。星も月も何もかも、雲が包みこみ支配して、何も見えない。
月が見えない
綺麗な月
あの時みたような、昨日見たような月
見えない、見えないよ…

「犬飼!どこだよお!!!」
叫んだ。声の限り。でも闇の中に消えるだけ…
ガク!

「うわあ!」
何かに足を取られてつまずいた。
とっさの事に、つい出していた手を擦りむいたらしい…

「いてえ…」

起き上がって、擦りむいた手をなめた。
血がにじんでいて、鉄の味が口に広がる…
足の下に異物感を感じた。たぶん石か何か?きっとつまずいた原因。
ちょっと一休みとソレをどけようと…

べちゃっ
「…なんだ?コレ…」

べちゃべちゃ
………。
生暖かい液体
水溜まりかと思った。ただ水が溜まっただけだと思った…
でも

「うわあああああ――!!!」
後ずさった。
ソコにあったソレはいわゆる死体。死体だった。
水溜まりだと思っていたそれは血溜まりで…
人間怖いときには何よりも自分の事を優先するだろう。
自分を守るために人を殺す。狂っていると言われても、其れは正当防衛。
しかたのないこと…
支給されたデイバックの中には、鎌が入っていた。
其れを急いで抜き出して力いっぱい右
手に握った。
左手で水をとって、一気に飲み干した。

立ち上がり、フラフラと歩き出す。
生きるため?
殺すため?

わかんないよ。ただ死にたくないだけだから…

そして約束は脆くはかなく崩れ去る。
いつのまにか現れた月は、まるで血の様に赤かった。



 


 
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